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オサリバン教授との研究

 以前の記事でも書いた、メガン・オサリバン(Meghan O'Sullivan)教授のリサーチ・アシスタントの仕事ですが、5月の期末レポートが終わった12日から26日くらいまでに集中して研究をして、一旦アウトプットを提出しました。アメリカのシェール革命、それがもたらす「エネルギーが豊富に取れる時代(the New Energy Abundance)」が、日本の外交政策や国内の政策にどのような影響を与えているかについて、調査をしました。いくつかの大胆な仮説、例えば、「アメリカのシェール革命によりアメリカはエネルギー自給ができるようになり、結果として中東への軍事的関与を減らす可能性があり、これは日本の集団的安全保障や憲法改正の議論に影響を与えている」、「日本がTPP交渉への参加決定をしたのは、シェールガスをアメリカから輸入する際に必要な政府の手続きをなくせることが大きな要因だった」、「シェール革命により、日本はロシアにエネルギー面で依存しなくて済むようになる、そのため、欧米がロシアに課す経済制裁に日本もより積極的に参加するようになるだろう」といったものについて、日本国内でどのような議論が行われているかを洗い出して、自分なりの回答を作っていきました。

 自分の興味分野と合致していたこともあり、研究自体が楽しく、どんどん書いていたら、シングルスペースで30ページくらいの成果物になりました。昨日、オサリバン教授とのミーティングがありました。教授は全部目を通してくれたようで、お世辞も入っているかもしれませんが、「徹底的な(thorough)調査で、これまで見つけられなかった情報もたくさん含まれていて、アウトプットにとても満足している」というような反応をもらいました。何とか教授にとって意味のあるアウトプットを出したいと思って研究していたので、素直に嬉しかったです。いくつか追加で調べてほしいことを言われ、6月からヨーロッパにインターンに行った後も、適宜連絡を取り合うことになりました。

 短期間でしたが、今回の研究を通じて、学んだことがあったので、整理しておきたいと思います。

1.日本語の情報を英語にトランスレートする価値
 日本語でしか書かれていない公開情報の要点を整理して、英語に直すだけでも、価値ある情報になり得ることを学びました。最近、NewsPicksという、海外を含む面白い価値のある情報を時系列に整理したポータルサイトが流行っていますが、このサイトも、「英語→日本語」と向きは逆であるものの、同じ発想から来ているのだと思います。日本語の情報を英語に直すだけで価値が生まれるのは、日本が世界第三位の経済国であり、英語が公用語でなく、英語をきちんと使いこなせる日本人の数がまだ決して多くはないからこそ、できることだと思っています。例えば、インドは経済大国になりつつありますが、英語が公用語の一つであり、英語を使える人も多いので、インド国内の情報を英語で入手するのは比較的簡単だと思います。シンガポールなども同様だと思います。他方、今回研究を行ってみて、日本国内の重要な情報は、英語になっていないケースが多いのではないかと感じました。例えば、直近の2030年のエネルギーミックスを議論するための政府の審議会の資料や議事録なども、英語に直されていません。そうした資料や議事録のうち、アメリカの文脈から見て面白い、ユニークな観点を提供する部分を英語に直して伝えるだけでも感謝をされました。アメリカの関心は中国に移っていることをケネディスクールでは肌で感じますが、日本についても、経済や安全保障の文脈で、どのような政策を取るかを、引き続き注目して見ている人が多くいると感じています。エネルギーについても、日本は世界第一位のLNG輸入国、世界第三位の石油の輸入国であり、日本のエネルギー政策の動向は世界のLNGや石油のマーケットに大きな影響を与えます。日本が一定の経済規模を持っている限り、日本国内で行われている議論を誤解のないように正しい英語にトランスレートし、アメリカの文脈において意味のある形で伝える能力というのは、今後も役立つのではないかと感じました。

2.ストーリーの大切さ
 今回、オサリバン教授は、自身初となる書籍で、一般の読者向けの書籍を執筆しています。その際、エネルギーについて専門知識のない一般の読者が、重要なアイディアについて理解を深めるための「Anecdote(物語)」を考えてほしいと言われました。アメリカで出版される本には多いパターンですが、章の冒頭を、読者が関心を持つような、特定の個人にまつわるストーリーや、歴史的出来事に関するストーリー、格言やことわざなどから開始して、徐々に、筆者の主張したいポイントにつなげていくというものです。エネルギーの地政学の授業で課題図書になっていた、ダニエル・ヤーギン氏のPrize(邦訳:石油の世紀ー支配者たちの興亡)やQuest(邦訳:探究ーエネルギーの世紀)も、多くの章が、そうしたストーリーから始まっています。何か面白いストーリーはないものかと頭を悩ませていたところ、会社の先輩でケネディスクールの同級生の方に相談をして、黒木亮氏の「エネルギー」をKindleで購入して、読みました。この本は、黒木亮氏の綿密な取材をベースにした実話に基づいた小説で、面白いストーリーが詰まっているからです。例えば、総合商社のトーニチと通商産業省がアラビア石油の次の「日の丸油田」として期待されるイランの油田開発を推進しようとするも、イランへの制裁を強化したいアメリカ政府からのプレッシャーに押され計画が頓挫してしまう話や、財閥系総合商社が、環境系NGOの反対などに遭いながらも、ロシアのサハリンプロジェクトを推進していく話などが、読者を引き込むようなドラマチックな形で描かれていました。

 正直、僕はこれまで、こうした小説やノンフィクションを読んで、ストーリーの蓄積を図る努力を怠ってきたなと思います。大学時代から、読書量はそれなりに確保してきたつもりですが、読んでいる本はビジネス本のようなものに著しく偏っていました。もっと読む本の幅を小説やノンフィクションに広げていかなくてはと漠然と思っていたのですが、今すぐやらなくてはいけないという必要性に迫られていませんでした。ケネディスクールに来て、初めて、その重要性を身に染みて理解できました。1月の授業で取ったArts of Communicationsでも、ストーリーを活用することで聴衆の感情(Pathos)に働きかけることが、聴衆を動かす上で重要だということを学びました。(過去の記事)この授業でスピーチを考えていた時も、自分の中にストーリーの引き出しの数が少ないなということを痛感していました。自分の関心の幅を広げて、小説やノンフィクションを読んだり、映画やテレビドラマを見たりといった地道な積み重ねが、面白いストーリーの引き出しの多さにつながってくると思うので、今後、意識してやっていきたいと思います。

3.一緒に働きたいと思われること
 オサリバン教授は、30代の若さでジョージWブッシュ元大統領のイラク・アフガニスタン問題に関するアドバイザーを務め、現在はハーバード大学の教授を務めながら、共和党のミット・ロムニー議員のアドバイザーを務めるなど、アカデミック、実務の両面でトップレベルで活躍している人です。多くの学生、特に女性の学生にとっては、ロールモデル的な存在なんだろうと思います。経歴だけ見ると、スーパーウーマンという感じで、とっつきにくいのかなと当初思っていたのですが、実際に接してみると、謙虚で、人から好かれる素養を持っていて、接していて気持ちの良い人だと思うようになりました。ちょっとした例を挙げれば、今回の研究のミーティングでも、すぐに本題に入るのではなく、僕の生活や家族などの話をしてリラックスした雰囲気を作ってくれたり、夏からのインターンで行くヨーロッパの国の話をしてくれるなど、相手の関心に合わせて気さくに話をしてくれました。また、一クラス60人近くいる授業にも関わらず、以前、オフィスアワーで何気なく話した僕の仕事の話などについても、きちんと覚えていることがありました。ハーバードにいるような教授は、学生の個人的な話にあまり興味を持たない人が割と多いので、こうした対応を取られるだけで、一層際立つように思います。エネルギーの地政学のCAを務めていた友人に聞いても、「仕事はかなり大変だったが、彼女がナイスで、彼女のためにだったら働きたいという気持ちがあったから、最後まで続けられた」ということを言っていました。授業を取っていた同級生も、「授業のコンテンツそのものは抜群に良かったということではないが、オサリバン教授の人柄のおかげで、この授業は人気が高いんだろう」という反応でした。僕自身、今後、組織で少しずつ立場が上がっていったとしても、謙虚さを忘れず、この人と一緒に働きたい、この人ならサポートしてあげたいと周囲から思われるような人になりたいと思いました。


オサリバン教授が教育について語っている短いインタビューです。
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[C59]

いい経験をしましたね、人を惹きつける人間的素養は仕事のみならず人生において一番大切な価値ですね。これさえ備えていれば仕事の半分は終わったようなもの、と言い切る人もいます。この人と働きたいと思われるような存在になりたいものですね。
  • 2015-05-29 13:10
  • otto
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[C60] Re: No title

コメントありがとうございます。たしかに、最近、この人を惹きつける人間的素養さえあれば、多くの仕事は良い方向に進むとういのを実感しています。ただ、言うのは簡単でも、実際にそれを身につけるのはかなり難しいと思っているで、普段から意識しながら高めていきたいと思っています。
  • 2015-06-06 20:16
  • tak
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tak

Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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