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国際機関で働くというキャリアについて

 IAEAでインターンをしていると、同世代か少し年下の人たちと接する機会が多く、国際機関で働くというキャリアについて考えさせられることが多くあります。オーストリアという土地柄のせいか、ボスニアやマケドニア、スロベニアといった東欧の決して裕福とは言えない国から、自分の能力を最大限活用したい、国際機関の中でインターンから始めて高いポジションまで這い上がっていきたいなど、高い野心を持っているインターンが多くいます。また、Junior Professional Officer(JPO)という、2年間国際機関で働き、その期間のパフォーマンス次第でそのまま国際機関に残ることができる枠組みを使って働いている同世代の方も、多くいます。ケネディスクールの同級生と話をしていても、国連やOECDなどの国際機関は卒業後のキャリアとして依然人気があります。ケネディスクールに限らず、フレッチャースクールやジョージタウン大学のMSFSなどの国際関係大学院の学生と話をする機会がありますが、彼らの中にも、卒業後のキャリアとして国際機関を考えている人が多いようです。僕自身、長いキャリアの中のどこかのタイミングで国際機関で働いてみたいと思っているので、国際機関のキャリアというテーマに関心を持っています。僕はたかだが一ヶ月半IAEAでインターンをしただけなので、もっとこのトピックについて書くのに相応しい人がいるはずですが、あくまで一人の若者の視点から、国際機関のキャリアについて思ったことについて、書いておきたいと思います。

1 「武器」がないとやっていけない
 僕が日本で所属していた組織と最も異なるのは、あらかじめ割り当てられた定常業務が存在しないということです。今振り返ると、日本で僕が所属していた組織は、新卒にとっては大変厳しい労働環境で、当時は非常に辛かった思い出があります。入社して右も左も分からぬまま部署に配属され、抱えきれないほどの大量の仕事を一気に与えられ、上司から叱られながら、無我夢中でそれをこなしていっていました。そこでは、毎朝会社に来れば、必ずやるべき仕事が目の前にあるのが当たり前でした。今思えば、毎日必死に与えられた業務を消化することで、仕事に必要な知識や基本的なスキルを得ることができたと思っています。他方、IAEAでは、少なくとも僕のいる部署では、定常業務と言われるものがほとんどありません。周りは外国人だらけで、母語ではない英語を使わなければならないというアウェイの環境の中、自分から仕事を創っていかなければ、何もしないで一日を過ごすことになりかねません。しかも、人事評価では、個人でどのようなことを成し遂げたかが主に問われるので、皆自分の手柄となる仕事を手がけるのに集中し、仕事を同僚同士で奪い合うようなことも起きるようです。IAEAは、国際機関の中でも、原子力の平和利用というミッションを掲げた、専門性の極めて高い組織なので特殊かもしれませんが、働いている人たちは、原子力工学や化学などの分野で博士号(PHD)を持っているか、各国の原子力関連機関やAREVAなどの原子力関連企業で20年〜30年働いていたというキャリアを持った人が多くを占めます。それぞれ、原子力に関する特定の専門知識(例えば、活動を終えた原子力発電所の廃炉に関する専門知識がある、放射性廃棄物をガラスなどを用いて固定化する技術の専門家であるなど)や、自国の政府関係者、産業界との人的コネクションなど、自ら仕事を創っていくために必要な武器を持っています。こうした専門性の極めて高い人たちに囲まれている中では、「自分にはこういう武器がある。この仕事は自分にしかできない。自分にやらせてくれ。」ということを強く主張していかないと、仕事をすることさえ難しいというのが、僕がこれまで受けた印象です。

 武器については、国際機関の中のポジション(マネジメント職かテクニカルな職か)によっても、求められるものが異なってくるように思います。IAEAの各セクションには、セクションヘッドと呼ばれるマネジメント人材がいます。また、各セクションは、複数のチームに分かれていて、それぞれのチームにはチームリーダーがいます。例えば、僕は現在、Department of Nuclear Energy(原子力エネルギー局)の、Division of Nuclear Fuel Cycle and Waste Technology(核燃料サイクル・廃棄物技術課)の中の、Waste Technology Sectionのうち、Predisposal Teamに所属しています。Waste Technology Sectionには約30人ほどが所属し、イギリス人の男性のセクションヘッドが統括しています。Predisposal Teamには5人が所属し、イギリス人の女性のチームリーダーが統括しています。こうしたマネジメント人材は、原子力分野に関する専門知識や経験はもちろん、マネジメントの経験が、業務を遂行する上で重要になってくると思います。こうしたマネジメント人材になればなるほど、他のセクションヘッドや、外部のプロフェッショナルとの共同作業・連携が仕事の多くを占めてくるようになるため、人間関係を構築する力や、会議を仕切る力、プロジェクトマネジメント力などが求められてくるからです。実際、僕のスーパーバイザーのイギリス人の女性のチームリーダーと、イギリス人の男性のセクションヘッドは、僕のようなインターンに対しても細やかな気遣いをしてくれたり、多様な国籍の人たちとコミュニケーションを取るのが上手だと感じています。

 国際機関でキャリアを歩んでいくとなると、インターンから始めてコンサルタントと呼ばれる期間限定の雇用契約をし、そこからプロフェッショナル職(P1〜P5という階級が存在する)の階段を上がっていくというキャリアを目指すことが考えられます。実際、僕もよく話をする他国のインターンやJPOの方たちの中には、こうした道を模索している人が一定数います。が、このキャリアパスは、相当困難なのではないかというのが僕の得た感触です。特定の分野で極めて高い専門性を持っていて、かつ、その専門性が国際機関の求めるスキルセットとぴったり合致するなどしない限り、階段の途中で行き詰まるのではないかと感じました。なぜなら、国際機関の職員への待遇はかなり良いことが多いため、一度プロフェッショナル職についた人はその職をキープしようと努めますし、仮にポストが空いたとしても、内部からの昇進を目指した同僚間の競争のほか、公募ポストであれば外部からの優秀な人材の応募も殺到するからです。しかも、国際機関の求めるスキルセットは、その時の社会情勢に応じて変わることが多いので、自分が突き詰めた専門性を活用できるかは、運の要素も大きいと思います。(例えば、福島の原発事故により原発の廃炉(decommissioning)に関する専門性を持った人材の需要が急に高まる、逆に、ガラスを用いた放射性廃棄物の固定化が主流になってしまった場合、セメントを用いた固定化技術の専門家の需要がなくなるなど。)また、実際に国際機関の中でうまく一つ上のポジションに上がることができたとしても、休む間もなく、次のポジションを確実なものにするため、内部のコネクション作りなど次のステップに向けて動いていかなければならないのは、精神的にも相当な負担になるという話もよく聞きます。

 どうしても国際機関でキャリアを積んでいきたいという強いこだわりがある場合を除けば、国際機関の下のポジションからキャリアの階段を一つずつ上がっていくよりも、まずは自国の政府機関や民間企業、研究機関や、多国籍企業などでじっくりと働き、専門性やマネジメント経験を蓄え、国際機関の公募ポストを時折チェックしながら、自分の経験やスキルセットが活かせるポストがタイミングよく空けばそれに応募するというのが、多くの人にとっては一番入りやすい方法ではないかと感じました。実際、先ほど書いたイギリス人の男性のセクションヘッド、イギリス人の女性のチームリーダーの両方とも、それぞれイギリスのセラフィールド(Sellafield)という原子力施設や、アメリカの廃棄物処理機関での勤務を経て、外部からの公募でIAEAのマネジメント職に就いた方たちです。僕自身、国際機関で働くというキャリアにこだわりすぎず、まずは今いる組織で一つずつ目の前の仕事に取組んでいき、人生のどこかのステージで、タイミングよく国際機関で働くことができればいいというスタンスで臨もうかと思っています。

2 自分の持っているスキルについて
 こうした国際機関でのキャリアを考えたときに、僕自身の現在持っているスキルセットというのが、いかに中途半端なものかというのを痛感しています。原子力の分野で数十年間働いてきた人や、原子力工学や化学などで博士号を取得した人と比べると、自分に「これが武器だ」と自信を持って言えるものがないと感じています。それでも、日本での数年の勤務経験や、日本の大学院で工学の修士号(技術経営)を取得したことと、現在ケネディスクールで学んでいるということから、経済学や公共政策についてスキルを持っているだろうと、下駄を履かせてもらっている面があります。例えば、現在僕が任せてもらえている仕事の一つに、放射性廃棄物処理の経済的分析に関する文書を改訂するというものがあります。これを任せてもらえたのは、たまたまWaste Technology Sectionに経済学のバックグラウンドを持った人材が不足していることと、僕がハーバードで経済学・公共政策学を学んでいるという事実がうまく重なったからです。

 ケネディスクールの一年目には、こうした国際機関で活用できるようなハードなスキルをほとんど学んでこなかったというのも感じています。例えば、統計分析(statistical analysis)、プログラム評価(program evaluation)、会計(budget)などが、分かりやすいハードスキルの例として挙げられると思います。統計分析や政策分析が必修として課されているMPPプログラムや、経済学や開発学、統計学などの定量的な科目をみっちりと必修で学習するMPA/IDプログラムではこうしたハードスキルを学びますが、僕が所属するMPA2プログラムでは、二年間のうち必修科目が一つもなく、自分の興味の赴くままに科目を選択してよいことになっています。この自由さを活かして僕がこれまで取った科目は、リーダーシップやスピーチなどのソフトスキルや、貿易の政治経済学やエネルギーの地政学、民主主義の理論といったふわっとしたテーマの科目が中心で、国際機関で働く上で即活かせるスキルではありませんでした。もちろん、これらの科目を受講したのは、こうした抽象的なテーマを学ぶのは今しかないと思ったからで、後悔は全くしていません。ただ、来年度は、自分にはこうしたスキルセットがあると自信を持って言えるように、ある程度戦略的に科目選択をしていきたいと思っています。今の時点では、エネルギー政策、経済学、リーダーシップ・マネジメントの3分野についてケネディスクールで学んだと、自信を持って言えるようになりたいと思っています。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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