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国際関係論で学ぶフレームワーク

 今学期は、エネルギーの地政学のコースアシスタントに加え、元国務次官のニコラス・バーンズのGreat Power Competitionと、東アジアの安全保障問題を扱うNegotiating US Interests in Evolving Asiaの授業を取っていることもあり、国際関係論という切り口から世界を見る比重が増えています。元々理系出身で日本の大学院で工学を修め、就職活動時に経済学を勉強した僕にとっては、この国際関係論というレンズで世界を見ることが新鮮で、学びが極めて大きいと感じています。職場の上司などでこの人はすごい、仕事ができる、話していて面白いと感じていた人は、ある分野にだけ特化して専門知識を持っている人ではなく、複数の学問分野に精通し、様々な切り口から物事を見ることができる人だなと感じていました。他方、特に理系出身の人にそのようなタイプの人が多いと思うのですが、物事を工学の切り口のみで見る人、他にも、法律家であれば法学の切り口から、エコノミストであれば経済学の切り口からのみ見る人というのが多いと思います。そうした専門知識を持った人たちは貴重で、尊敬もするのですが、僕自身が目指す方向性としては、経済学、経営学、国際関係論など様々な切り口から物事を分析できるようになる、また、色々な分野の専門家の方たちと共通の言語で話ができるようになり、それらの人たちの力を活用して課題を解決していくことだと思っています。そのために、残り1年、ケネディスクールで訓練を積んでいきたいと思っています。ケネディスクールは、国際関係論だけでなく、経済学、統計、政治学など、様々な学問分野の科目が豊富に開講されているので、世の中の事象を見る切り口を増やしたいと考えている人にとっては、多くの学びの機会を与えてくれる学校だと思います。

 さて、今日は、東アジアの安全保障の授業で扱った北朝鮮問題について、様々な学びがあったので、書き記しておきたいと思います。僕自身、北朝鮮の問題については、恥ずかしながら授業を取るまではほとんど知識がなく、最近学び始めたばかりなので、専門家の方から見ると当たり前のことや素人的な分析だと思われることが書いてあるかもしれませんが、ご容赦ください。

 まず、この授業では、米国国務省の職業外交官で韓国大使や北朝鮮特使を務めたボズワース教授と、ゴールドマンサックスやボストンコンサルティンググループで働き、現在は東アジアの安全保障問題の専門家であるパク講師の2名により、外交・安全保障問題を分析する上での有用なフレームワークを教わります。毎回出されるリーディングでは、これらのフレームワークを活用して分析することが推奨されます。最初に教わったフレームワークは、DRUフレームワークと呼ばれるものです。これは、Debunking MythsRecalibrating MisperceptionsUncovering Truthの頭文字を取ったものです。Debunking Mythsは、世にまかり通っている根拠のない神話が誤りであることを証明するという意味です。Recalibrating Misperceptionsは、一定の事実に基づいている誤解を再調整するという意味です。Uncovering Truthは、これらの分析を通じて、未だ明らかになっていない真実を解明するという意味です。Debunking MythsとRecalibrating Misperceptionsの2つは似たような概念であり、学生からもその違いについて質問が出ました。学期中を通じて、これらの違いについて深く見ていくとのことですが、パク講師は、Debunking Mythsの例として、アメリカは宗主国(Colonial Power)でないとの神話があるが、実際は、フィリピン等を植民地化していた歴史があるということを挙げていました。Recalibrating Misperceptionsの例としては、アメリカのアジアへのシフト(Pivot to Asia)について、アメリカが中東からアジアに軍備を配置転換することが主目的だとの誤解があるが、実際には、アメリカが最重要視しているのは軍の再配置ではなく、TPPを通じた東アジアでの自由貿易体制の構築であるということを挙げていました。

 以下は、僕自身がこのDRUフレームワークを用いて、北朝鮮問題について分析をした例を、2つ挙げたいと思います。

(1)北朝鮮内部のロジック
 僕は、北朝鮮という国は、極めて非合理的な判断を下す国であると認識していました。しかし、この授業のリーディングを通じて、北朝鮮の歴史、外交関係を学ぶにつれて、北朝鮮は、与えられた制約条件の中で合理的な判断を取ってきたと感じるようになりました。北朝鮮は中国と1949年に外交関係を築き、それ以来、中国から軍事的、経済的支援を受け続けてきました。同様に、北朝鮮は、1961年に有効条約を締結したソ連からも、軍事的、経済的支援を受け続けてきました。このように、北朝鮮は、ソ連と中国から安全保障上の保証(security assurance)を与えられてきましたが、1990年前後にその状況は一転します。1991年のソ連崩壊によりソ連(ロシア)との友好条約は事実上なくなりました。また、同時期に、韓国が1990年にソ連と、1992年に中国と外交関係を築き、両国との経済的結びつきを深めたことにより、北朝鮮がそれまで中国とソ連から優先的に受けていた軍事的、経済的支援は大きく減少しました。ちょうどこの時期(1990年代前半)に、北朝鮮は、核兵器の開発を加速させました。つまり、北朝鮮が核兵器の開発に加速させたのは、安全保障上の保証(security assurance)が大きく減少したことが原因であり、金政権からすれば、合理的な判断だったと言えます。このように、北朝鮮は極めて非合理的な国だというのは一見正しそうですが、北朝鮮の立場に立ってみれば、与えられた状況の中で政権を存続させるために合理的な政策を取ってきたということが言えるかと思います。

(2)中国の対北朝鮮政策
 僕は、中国と北朝鮮の間の強い結びつきは、日本やアメリカにとって安全保障上の脅威を与えているという認識を持っていました。しかし、授業のリーディングを通じて、中国は北朝鮮に対する独自の影響力やチャネルを持っており、アメリカや韓国、日本は、むしろ中国と緊密に連携しながら北朝鮮の非核化を目指していくべきだと感じるようになりました。まず、両国間には強い経済的結びつきがあります。中国と北朝鮮との間の貿易は近年急激に伸びており、北朝鮮の全貿易額のうち中国の占める割合は、2007年に41%だったのが、2011年に70%に増加しています。また、中国は、北朝鮮の北東部のハムギョン地域にある石炭や鉄等の鉱物資源の開発に投資をしてきました。このように、中国は、北朝鮮との経済的結びつきを強めることで、北朝鮮への影響力を拡大してきました。次に、両国間には独自のチャネルがあります。中国と北朝鮮の関係は、通常の2国間関係で見られるような両政府の外務省同士のパイプよりも、中国共産党と朝鮮労働党(Party to Party)と、軍と軍(Military to Military)の結びつきが強いのが特徴です。こうした党と党、軍と軍の間の関係を用いて、中国は北朝鮮の政権の存続を支え、それがひいては中国の利益につながるようにしてきました。以上のように、中国は北朝鮮との強い経済的結びつきや独自のチャネルを通じて、北朝鮮の安定に寄与してきた面もあり、アメリカ、韓国、日本は、むしろ中国を上手く活用して、朝鮮半島の安定・非核化を目指していく姿勢が求められるのだと思います。

 このDRUフレームワークは、根拠のない神話や、人々が陥りやすい誤った認識をスタート地点としてとらえ、それらの誤りを正すことを通じて、政策の方向性を検討していくツールであると感じました。北朝鮮の問題に限らず、外交や国際経済など、人々が必ずしも正しく事実関係を理解していないような問題に対して、このフレームワークを適用して議論することで、正しい政策の方向性が導きだせるのではないかと思いました。僕自身、今後、課題に直面し、政策の方向性を打ち出すのに苦労した場合は、このDRUフレームワークも一つの手段として活用していきたいと思います。


John Park講師が北朝鮮問題について語ったビデオです。

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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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