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ジェブ・ブッシュ氏のエネルギー政策

 ケネディスクールは政治・公共政策の大学院ということもあり、2016年のアメリカ大統領選に学生は高い関心を示しています。前回の記事にも書きましたが、僕が今学期仕えている教授であるメガン・オサリバンも、共和党からの大統領候補者であるジェブ・ブッシュ氏のキャンペーンに関わっています。そのジェブ・ブッシュ氏が、火曜日に、ペンシルベニア州での講演の際に、新しいエネルギー政策を発表しました。このエネルギー政策の策定には、オサリバン教授が中心的に関与しているようです。その主な内容は、以下のとおり。詳細は、ジェブ・ブッシュ氏のHPに出ています。

【ジェブ・ブッシュ氏のエネルギー政策の主なポイント】
1.アメリカの原油を海外に輸出できるようにする
 アメリカは、1970年代のOPECの原油輸出禁止(Oil Embargo)により経済的混乱が起こった時以来、エネルギー安全保障上の観点から、アメリカの原油を海外に輸出することを禁止してきました。近年、シェールオイル・ガスの生産増加により、アメリカは2020年には原油のネット輸出国(Net oil exporter)、2017年にはガスのネット輸出国(Net gas exporter)になると言われています。ネットというのは、アメリカが輸入している量よりも、輸出する量が上回るということです。ジェブ・ブッシュ氏は、アメリカの原油輸出禁止を解除することで、百万人単位の雇用創出効果、ガソリン価格の低下を実現できると主張しています。
 ここで面白いのは、アメリカの原油を海外に輸出するようになると、アメリカ国内の原油の価格は上がるのか下がるのかという議論です。輸出反対派は、アメリカの原油を海外に輸出すると、中国やインド、日本などの原油消費国の需要を喚起し、価格が上がると言います。他方、輸出賛成派(ジェブ・ブッシュ氏含む)は、アメリカの原油が世界のオイルマーケットに入り、供給量が増えるので、価格は下がると言います。僕は経済学的に検証したわけではないのですが、世界のオイルマーケットはガスマーケットとは異なり、基本的に一つにつながっているため、後者の考え方(アメリカ原油の輸出は価格を引き下げる)が正しいのではないかと考えています。

2.アメリカの天然ガスを海外に輸出しやすくする
 この論点は1の原油の輸出に近いものです。ただし、天然ガスについては、アメリカは法律で輸出を禁じていることはなく、単純に国内の輸出許認可の手続きに時間がかかっているという現状があります。アメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいない国については、アメリカからLNG等の天然ガスを輸入する際には、アメリカのエネルギー省(Department of Energy)の許可が必要となります。この許可に数か月単位で時間がかかることが多く、タイムリーな天然ガスの輸入が実現できていないという問題があります。なお、アメリカとFTAを結んでいる国については、このエネルギー省の許可手続きが免除となり、よりタイムリーなガスの輸入が可能となります。日本が現在アメリカ等11か国と交渉しているTPPの締結が実現すれば、日本とアメリカの間のFTAが実現したとみなされるので、日本もよりタイムリーなガスの輸入が実現できることになります。ジェブ・ブッシュは、どのようにアメリカの天然ガスの輸出を促進するかについて細かく述べていませんが、アメリカとFTAを結んでいない国、例えば今後エネルギー需要が急増する中国やインドなどについても、簡素な手続きで輸出を進めようとしているのではないかと思われます。

3.キーストーンパイプラインの建設を認める
 キーストーンパイプラインとは、カナダのアルバータ州にあるオイルサンドをアメリカのテキサス州まで輸送するパイプラインのことで、その建設を認めるか否かが、近年大きな政治的論争になってきました。ジェブ・ブッシュ氏は、ヒラリークリントン氏やオバマ大統領が建設に否定的なことを批判した上で、パイプライン建設の経済効果(30億ドル以上の経済成長、42,000人の雇用創出)をアピールし、その建設を認めるべきだと主張しています。


 オサリバン教授自身も漏らしていたのが印象的でしたが、今回発表されたジェブ・ブッシュ氏のエネルギー政策は、主に政策の経済的効果に焦点を当てたもので、地政学的効果については述べていません。つまり、アメリカが原油・ガスをはじめとするエネルギーの輸出国になることは、アメリカの外交政策上の大きな武器になるという点です。例えば、エネルギーの地政学の授業でも扱っている内容としては、EUの天然ガス輸入の30%はロシアから来ていて、EUとしては、近年のロシアのクリミア半島の併合などの問題的行動を踏まえ、その割合を減らしたいと考えています。アメリカがLNGの輸出を促進すれば、EUはロシアへのガス依存を減らすことができるかもしれません。また、アメリカの原油・ガスが世界の市場に入ってくることにより、ロシアがこれまで取ってきたエネルギーをレバレッジとした強気な外交政策を抑制する効果もあるかもしれませんし、欧米諸国がより強く経済制裁をロシアに対して与えるということも可能になってくるかもしれません。また、キーパイプラインの建設は、アメリカとカナダの間のエネルギー相互依存を強化し、アメリカの中東に対するエネルギー依存度を減らす効果があるとも言われています。安定的なエネルギーの供給は、アメリカが中東に対して積極的に関与する理由の一つとなっているので、アメリカとカナダのエネルギー依存度の強化は、アメリカの中東に対する外交政策に変化をもたらすかもしれません。こうした地政学的なインプリケーションについて、追ってジェブ・ブッシュ氏から発表されることになるのではないかと期待しています。

 以下は、エネルギー政策とは関係のない議論ですが、アメリカでは、学生が自由に自分の政治的思想を語り、政策論議を交わすというのが日常的になっているのが印象的です。もちろん、ケネディスクールという学校の特性上、政治や政策に関心の強い人が多いという要素は無視することはできないと思います。ただ、友人と政治的な話は極力するなと教育を受けてきた(少なくとも僕はそうでした)日本と比べると、政治的思想や政策を自由闊達に議論する風土がアメリカには整っているように感じます。共和党の大統領候補にしても、今回紹介したジェブ・ブッシュ氏がエネルギー政策を発表すれば大きくニュースになるし、他の候補者も独自の政策を打ち出して、他との差別化を図ろうとしています。日本では、どの候補者も似たような政策を打ち出しているように見えますし、そもそも周りの友人や同僚たちとの間で政策の議論をする風土がないので、投票に行ったとしても、その人の所属する政党や印象などの理由で投票してしまうことが多いように思います。また、そもそも投票に行かないという人、特に僕と同世代の若い人にそのような人が多いと感じています。アメリカのように、日常的に政治的思想や政策を楽しく真剣に議論するような空気感が日本にも芽生えてくれば、投票率の向上や、候補者の政策論議も高度化してくるのではないかと思いました。


ジェブ・ブッシュ氏のスピーチのうち、エネルギー政策について言及している部分です。
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  • 2015-10-07 05:17
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プロフィール

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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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