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天然ガス版OPECは存在し得るか

 エネルギー関係の話題が続き、関心のない方には恐縮ですが、昨日のエネルギーの地政学の授業での「天然ガス版OPECは存在し得るか」という議論が面白かったので、紹介したいと思います。

 OPECは80%の原油の生産シェアを占めていた1970年代と比べ、現在は30%にまで低減し、原油価格の変動に与えられる影響力は下がっていることが指摘されています。また、サウジアラビアが昨年11月と今年6月のOPEC会合で、原油生産量を減少させないという意思決定を下すなど、OPECとして原油価格調整機能を担う意思があるかどうかについて、疑義の声も聞こえてきます。加えて、アメリカのシェール革命をはじめ、非OPEC諸国の原油生産量の増加傾向が今後も続くことは、OPECの原油価格に与える影響力を更に弱めるのではないかという指摘もあります。それでもなお、原油の生産量を機動的に変化させることのできるスイング・プロデューサー(Swing Producer)としてのサウジアラビアが存在すること、世界の原油マーケットが一つであり、OPECの決定の影響をアジアや北米も直接受けることから、OPECの影響力は未だ死なずに残っていると言えます。

 OPECと比べると知名度は圧倒的に下がりますが、天然ガスの主要生産国が集まるGECF(Gas Exporting Countries Forum)というフォーラムが存在します。メンバー国には、天然ガスの蓄積量(Reserves)のトップ3であるロシア、イラン、カタールの他、ベネズエラ、UAE、リビア、ナイジェリアなどの主要な天然ガス産出国が名を連ねています。GECFのメンバー国だけで、世界の天然ガスの蓄積量の67%、輸出量の46%、生産量の38%を占め、その潜在的な影響力はOPECに匹敵するものがあります。今回のエネルギーの地政学の授業では、GECFは天然ガス版のOPECとして、世界のガス市場に大きな影響を与えられるかというテーマで、ディスカッションを行いました。

 様々な意見が出ましたが、結論としては、当面の間は、GECFが天然ガス版のOPECとして機能するのは難しいのではないかという意見が大勢を占めました。理由としては、主に以下の3つが挙げられます。

 一点目は、天然ガス市場と原油市場の性質が大きく異なることです。原油市場は、世界に一つのグローバルマーケットであるのに対し、天然ガス市場は、世界で統一されたグローバルマーケットは存在しません。世界には大まかに言って3つのガス市場が存在します。すなわち、ガスの需要と供給のバランスにより価格が決定される北米のヘンリー・ハブ、長期契約(long-term contract)が大半を占め価格が原油価格とリンクしているアジア市場、アジア市場ほどではないにせよ長期契約が依然として残り、価格が一定程度原油価格とリンクしている欧米市場です。このように、世界で統一的なガス市場が存在しないために、仮にGECFが生産量を調整して価格に影響を与えようとしても、世界全体に影響を与えることは難しいのが現状です。

 二点目は、メンバー国の政治的意思を統一するのが難しいことです。OPECについては、メンバー国の間で米国に近いサウジアラビア、UAE、カタール、クウェートなどの湾岸諸国(GCC国)と、イランやベネズエラなどの国との間で対立が生じることが指摘されますが、それでも、原油価格を高く維持することで自国の利益につながるという共通の利害をメンバー国の間で共有しています。GECFにの中では、米国とは異なる利害を持つロシアとイランが二大ガス大国として君臨している一方で、米国と立場を近くするカタール、UAEなどの国々も含まれます。これらの国々が、共通の目的に向かって立場を一致させ、ガス生産量を調整することは困難ではないかという点が挙げられます。

 三点目は、天然ガスについて、原油のように生産量を自在に調整することが難しいことです。まず、OPECについては、サウジアラビアという圧倒的なスウィング・プロデューサーが、原油の生産量を柔軟に調整する能力と意思を兼ね備えています。他方、GECFについては、ロシアがスウィング・プロデューサーになる可能性は完全には否定できませんが、サウジアラビアのように、自国の利益を損なってまでガス生産量を減少させ、ガス価格に影響を与えようとする意思があるかどうかはかなり怪しいのが現状です。また、天然ガスに関するインフラ施設(LNGの液化施設、ガス化施設を含む)は、建設費・維持費ともに原油よりも圧倒的に高いことが挙げられます。そのため、原油のように、一旦天然ガスのインフラ施設を休止させ、生産量を調整するということが実現しにくいのが現状です。

 その他にも、原油の発掘・生産はブラジルのペトロプラスやメキシコのPEMEXのように国営企業が担っているケースが多いのに対し、天然ガスの生産はより民間企業主導で行われているため、政治的意思により生産量を増減させることが難しいことも理由として挙げられます。

 これらの意見に対して、GECFは将来的には天然ガス版OPECとして機能し得るという意見を主張した人もいました。彼らは、(1)アジア市場が長期契約ではなく短期のスポット契約に移行する動きを見せるなど、長期的に見れば世界のガス市場が一つに統一される可能性もあり得ること、(2)GECFのメンバー国の政治的意思はばらばらであるとは言え、ガスの価格を高く維持して自国の利益を確保したいという点においては共通の利害を持っていること、(3)技術革新により、天然ガスも原油のように柔軟に生産量調整ができるようになる可能性もあることを指摘していました。

 これらの議論から、日本のエネルギー政策にどのような示唆が得られるでしょうか。原子力発電所がどの程度再稼働するか否かによらず、日本はエネルギー源として原油と天然ガスに今後数十年は頼らざるを得ない状況が続くと思います。特に、発電部門については、太陽光や水力などの再生可能エネルギーや原子力が一定程度担うことになったとしても、交通部門については、原油によって賄われる状況が当面続くと思います。(仮にガソリン自動車が電気自動車に置き換わることが起きても、その変化は急には起こらないと思います。)原油と天然ガスが国内で取れない日本にとって、いかに安定的にそれらの供給を確保するかは、国際政治と密接に関連しており、OPECの意思決定、中東諸国の政治情勢、GECFの政策などについて、常にアンテナを張って最新の状況をチェックし続ける必要があると改めて感じました。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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