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シェール革命はアメリカの制裁の効果を高めるか

 エネルギーの地政学では、シェール革命がアメリカのエネルギー制裁の効果を高めるかということについて、議論を行いました。少し専門的で、日本には馴染みのないトピックですが、面白かったので紹介したいと思います。ちなみに、メガン・オサリバン教授は、制裁に関して研究をして論文も出していたことがあるので、この分野についてはかなり詳しいです。

 まず、制裁には大きく分けて三つの種類があります。一つ目は、制裁の相手国の政権を変化させる(Regime Change)ためのものです。アメリカの南アフリカに対する制裁がこれに当たります。二つ目は、制裁の相手国を封じ込める(Containment)のためのものです。アメリカのイラク・フセイン政権に対する制裁がこれに当たります。三つ目は、制裁の相手国の行動を変化させる(Behavior Change)のためのものです。近年のアメリカのイランに対する制裁は、イランの核活動を停止させるという行動の変化を目的としたものなので、このカテゴリーに含まれます。

 日本は、国家が他国の政権を変化させたり、封じ込めたり、行動を変化させるための手段として、制裁(Sanction)をツールとして考慮することは少ないですが、アメリカでは、制裁は、外交政策(Diplomacy)と軍事的行動(Military Action)と並んで、主要なツールの一つになっています。今回のエネルギーの地政学の授業では、アメリカのシェール革命がエネルギー制裁の効果を高めるかについて議論しました。

 アメリカのシェール革命が制裁の効果を高めるという主張には、大きく二つの理由があります。一つは、他の国がアメリカ主導の制裁に参加しやすくなり、多国間の制裁(Multilateral Sanction)を容易にするからです。例えば、イランやロシアなどの産油国に制裁を加え、それらの国からの原油の輸出を制限する例を考えてみます。エネルギーを自給できない日本や中国などの原油輸入国にとってみれば、イランやロシアは貴重な原油の供給国なので、制裁に加わるのを躊躇します。しかし、アメリカのシェール革命により、アメリカが原油の輸出国になれば、日本や中国などの原油輸入国としては、原油を購入する産油国のオプションが増えることになるので、より制裁に加わりやすくなります。仮にアメリカが原油の輸出国にまでならなかったとしても、アメリカの他国からの原油輸入量は減るため、これまでアメリカに輸出していた産油国は、新たな買い手を見つけるため、日本や中国などへの原油の輸出を増やす行動をとります。つまり、アメリカのシェール革命により、原油輸入国にとっては、制裁の相手国以外の産油国からの原油を確保できる可能性が高まるため、制裁への参加のインセンティブが増加することになります。さらに、原油の輸入国が産油国への制裁に躊躇する大きな理由の一つに、制裁を加えた場合、原油の供給が大きく減り、原油価格の高騰をもたらすリスクがあるということが挙げられます。しかし、シェール革命により、仮に産油国の生産量が減ったとしても、アメリカがそれをカバーするようにシェールオイルの生産を増やすことが可能になるので、原油価格の急騰を抑止することが可能になりました。つまり、原油価格の高騰を懸念していた日本や中国などの原油輸入国が、原油価格の高騰を心配することなく、アメリカ主導の制裁に参加しやすくなるというメカニズムが働きます。

 二つ目の理由は、シェール革命が原油価格の低下をもたらしたことで、産油国の財政が圧迫されていることが挙げられます。原油価格が1バレル40〜50ドル台では、イランやロシアなどの原油に大きく財政を依存している国は、財政を維持することができません。ただでさえ原油価格の低下により大きな経済的打撃を受けている産油国にとって、制裁による経済的圧迫は多大な影響を与えます。つまり、原油価格が1バレル100ドル台だった時の制裁と比べて、現在のように、1バレル40〜50ドル台における制裁は、産油国に与える経済的インパクトが大きく、核開発などの問題ある行動の変化や、政権の変化をもたらしやすくなると言うことができます。

 他方、アメリカのシェール革命は必ずしも制裁の効果を高めないという主張も展開することができます。特に、この主張は天然ガスに関する制裁についてよく当てはまります。シェール革命によりアメリカの天然ガスの供給量が増えることで、アメリカは2020年には天然ガスの輸出国になると言われています以前の記事にも書きましたが、現状では、天然ガスについてはグローバルな市場というものは存在せず、大きく分けて、アメリカ、欧州、アジアの3つに市場が分かれています。しかし、シェール革命によりアメリカがLNGの輸出を開始すれば、主に中東諸国との長期契約に依存していた日本や韓国などの天然ガス輸入国が、アメリカのLNGのスポット契約(需要と供給によって価格が決定される)に切り替わっていきます。これにより、アメリカ、欧州、アジアの3つの市場が、需要と供給によって価格が決定される一つのグローバス以上に統合する方向に向かっていくと考えられます。

 天然ガス市場がグローバル化し、より大きなLNG市場が形成されることは、天然ガスに関する制裁の効果を弱めると考えられます。歴史的に、天然ガスに関する制裁は、パイプラインによるガスの輸送を遮断するという形で行われてきました。LNG市場が存在しなかった頃には、例えば、天然ガス消費国によるロシアへの制裁は大きな効果を持っていました。なぜなら、天然ガスガスパイプラインを遮断してしまえば、ロシアは、天然ガスを売りつける相手がいなくなってしまうからです。しかし、LNG市場が形成されれば、ロシアは、仮にパイプラインによる輸送が遮断されたとしても、天然ガス消費国にLNGの形で輸出を行うことが可能になります。このように、LNG市場が形成されることで、制裁を受ける国は、より広く天然ガスの買い手を見つけることが可能になるので、制裁の効果は弱まるということが言えます。

 それでは、日本に対するインプリケーションは何でしょうか。色々な見方があると思いますが、一般的には、シェール革命により原油・ガスともに余剰の生産能力が高まった世界においては、日本は原油・ガスを購入する先の国が多くなると言えます。つまり、日本にとって、一つの産油国に依存をする必要性が弱まるということです。そのため、ある産油国が人道的に問題のある行動や、核兵器の製造等の望ましくない行動を取っていた場合に、日本としてより強気な制裁を加えることが可能になると言えると思います。また、アメリカが主導する制裁にも、エネルギーの供給の心配をしすぎることなく、協力することが可能になってくると言えます。このように、他国への制裁も含め、他国への外交政策をより自由に(エネルギーの供給確保という命題に制限されることなく)行使できるという意味において、シェール革命は日本にとって望ましい動きだと言うことができると思います。
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  • 2015-10-22 02:06
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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