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ケネディスクールという選択について

 今年も出願の時期が迫ってきて、このブログを見てくれた人や、知り合いのつてなどから、ケネディスクールの出願に関する質問や、そもそもケネディスクールではどのようなことを学べるのかという質問を受けることが多くなってきました。過去にもケネディスクールの特徴について、いくつか記事(2014年9月2014年10月)を書いていますが、ケネディスクールで学び始めて一年2か月を経て、考えもより整理されてきたので、この機会に、僕が思うケネディスクールの特徴、他の公共政策大学院や、ビジネススクールとの違いなどについて書いておきたいと思います。

1.基本的には、政策・国際関係論など、国レベルの議論をする場であること
 ケネディスクールへの出願を検討している方と話をすると、ビジネススクールやロースクールと迷うという人も多くいます。僕が思うに、それらのスクールとの一番の違いは、ケネディスクールは、基本的には、公共政策や、国際関係論、外交、安全保障、金融政策、経済政策、貿易政策など、国家レベルの大きなを話をする学校であるということです。国家間の紛争をなくすためには何をするべきか、国家のパワーを向上させるためには何をするべきか、途上国が経済成長を実現するにはどんな政策をとるべきか、金融危機を防ぐために何をすべきか、国がエネルギーを安定的に確保するためにどのような政策をとるべきか、というテーマが中心になります。逆に言うと、企業が取るべき戦略や、会計、ファイナンス、マーケティングなどの分野をケネディスクールで学ぶというのは基本的にはありませんし(そのような授業も一部ありますが、ケネディスクールの中では傍流です。)、国際法、通商法などの法律を学ぶことはありません。こうした国のあり方、目指すべき方向性といった議論や、長期的に世界はどのように変化していくのかといった俯瞰的な議論が好きな人にとっては、それらを学べる授業がたくさんありますし、話し相手となる教授や学生がたくさんいるので、この上なく充実した環境が整っていると思います。他方で、こうしたふわふわした議論や抽象的な議論が好きでなく、もっと地に足の着いた勉強をしたいという人にとっては、あまり楽しい環境であるとは言えないかもしれません。

2.もう一つの潮流として、草の根レベルからの社会貢献の在り方を考える場であること
 この点は1点目と矛盾するようですが、国家レベルの話と全く逆のベクトルとして、ケネディスクールは、NPOや市民運動などの活動を通じて、草の根レベルから社会的問題を解決していくための手法を学ぶ場でもあります。ケネディスクールの考え方の根底として、公共的な問題は、政府だけでなく、民間企業や非営利セクターがそれぞれ役割を果たして解決を目指すべきというのがあると感じています。同級生のバックグラウンドを見ても、外交官や軍人、政治家、官僚といった国レベルで働いていた人が数としては多いと感じますが、他方で、一定数、NPOなどの草の根レベルで社会問題を解決するために働いてきたような学生もいます。例えば、ケネディスクールのスター教授の一人でもあるマーシャル・ガンツは、自分が情熱を持っている社会問題を解決するための市民運動をオーガナイズするための方法論を教えていますし、他にも、NPOの効果的なマネジメント、社会起業(Social Entrepreneurship)に関する授業のラインナップも充実しています。

3.公共政策大学院の中では、実際に人を動かすためのソフトスキルに重きを置いていること
 他の公共政策大学院に通ったことがないのですが、ケネディスクールの特徴の一つとして、経済や統計などの定量的な分析のスキルを鍛えること以上に、実際に周囲の人を動かすソフトスキル(リーダーシップ、交渉術、説得術、スピーチなど)の養成に非常に重点を置いていることが挙げられると思います。中でも、ケネディスクールの特徴として、リーダーシップの養成に重きを置いていることが挙げられます。実際に、学校のビジョンとして公共政策の分野のリーダーの育成を掲げていて、事あるごとに、リーダーとはどうあるべきか、どのようにリーダーシップを発揮すべきかという議論を徹底的にさせられます。フォーラムと呼ばれる講演会にも、今年4月には安倍総理も来ましたし、バイデン副大統領、ガーナやチュニジアなどの国のトップを頻繁に招き、リーダーの目線から物事を考えさせる機会が充実しています。学生の中には、政治家志望の学生も多く、将来は国のトップに立ちたいと真剣に考えている同級生も多くいます。また、中には、アラブ諸国でアラブの春の運動の立ち上げに関わった人など、人を動員するプロのような学生もいます。ケネディスクールは、こうした学生と同じ教室で授業を受けることで、政策を分析・立案する力だけでなく、実際にそれを周囲に説得力ある形で説明して、人を動かしていく方法について徹底的に考えさせられる学校だと思います。

4.世界の出来事を見るレンズを思い切り広げるための場であること
 ケネディスクールでは、国際関係論から経済学、開発学、民主主義、人道問題、エネルギー政策、環境政策、組織マネジメント、リーダーシップ、交渉術、スピーチ術など、あらゆる分野の科目を受講することができます。僕自身は、これまでの人生できちんと学んでこなかった分野、国際関係論や民主主義、リーダーシップ、スピーチ術などの授業を受講することで、世界の出来事を見る上での新しい切り口を得ることができたと思います。このことは、ある世の中の問題(例えば、エネルギー問題)について意見を問われた場合に、以前は経済学的な観点からしか回答できなかったのに対し、今では、複数の切り口(国際関係論や安全保障、民主主義)から分析できるようになったとも言えます。もちろん、様々な科目を広く受講しただけなので、それぞれの分野の専門家から見れば、それぞれ浅い知識しか持っていないのだと思います。が、ケネディスクールという環境を最も上手に活用する方法は、こうした様々な学問分野に触れ、自分の視界を目一杯広げることなのではないかと思っています。一旦自分の視野を広げ、基本的な考え方を習得すれば、日本に帰国した後、いくらでも自分の努力次第で深堀していくことができると思うからです。他方、これらの逆を言えば、一つの研究分野を徹底的に掘り下げるという観点からは決して適した場ではないと言えると思います。周りの学生も、研究肌の学生というのはあまり多くないですし、社交が好きな学生が多いので、かなり強い信念がなければ、周りに流されて研究を深めていくことは難しいかもしれません。

5.目先の就職という観点からは、必ずしも適した学校ではないこと
 この点は、これまで述べた点、特に1点目の裏返しになりますが、ケネディスクールでは、ビジネスなどの場で即役立つ知識というのを学ぶ機会は多くありません。ケネディスクール卒業後、政府機関や国際機関などのパブリックセクターに就職したいと心を決めている場合であれば、話は別かもしれませんが、コンサルティング会社や投資銀行、ベンチャー企業などへの就職、あるいは起業を考えているのであれば、ケネディスクールでの2年間ないし1年間は遠回りになると思います。もちろん、ケネディスクールを卒業して世界的にも有名なコンサルティング会社や投資銀行に就職する学生も知っていますが、周りの様子を聞いていると、かなり多くのケネディスクールの学生がこれらの会社を受けていて、実際に受かるのは一握りのようです。もしビジネスの世界でキャリアを歩んでいきたい、就職活動で武器になるような実践的スキルを身に付けたいという気持ちがあるのであれば、ビジネススクールに進学する方が確実に近道だと思います。

(番外編)ケネディスクールに入るのは難しいか
 最後に、実際にケネディスクールに入るのはどれくらい難しいのかという点について、私見を述べたいと思います。これについては、僕自身はアドミッションオフィスと直接関係もありませんし、必ずしも正しい情報を持っていないのですが、少なくともここ最近の入学のトレンドについては把握しているので、何らかの参考になるかもしれません。今年(2015-2016年度)の日本人学生は、ケネディスクール全体で1000人程度に対し、10人のみです。内訳としては、2年コースが4名(MPPの2年目が一人、MPPの1年目が一人、MPA-IDの1年目が一人、MPA2の2年目が一人(=僕))、1年のミッドキャリアが6名です。昨年(2014-2015年度)は、日本人学生が11人、内訳として、2年コースが4名、1年のミッドキャリアが7名でした。数字を見て分かるとおり、2年生コースの方が入学は狭き門だと思います。1年のミッドキャリアの方々は、それぞれ公共政策や国際開発、メディアなどの分野で特筆すべき実績を積んできていて、英語力や学生時代の成績などよりも(もちろんこれらの水準も高いのですが)、これまでのプロフェッショナルな実績を買われて入学をしてきている方が多いと感じています。実際に、授業を受けていても、これらのミッドキャリアの人たちの過去のプロフェッショナルな経験に基づいた発言には目を見開かされることが多く、大学側としても、そうした授業でのディスカッションにユニークな観点を提供できるかという点に重きを置いて選んでいるのではないかと思っています。他方、2年コースは、もちろんパブリックな分野に関する職歴が一定程度あることは求められているのですが、それ以上に、英語力(TOEFLの点数)であったり、アカデミックに優れた資質があるか(大学時代の成績など)も、同等かそれ以上に重視されていると感じています。既に自国である程度の成功を収めている人が多い1年のミッドキャリアと比べ、2年コースは、平均年齢も比較的若く(MPA2で30歳、MPA-IDで28歳、MPPで26歳)、卒業した後の将来性を買われて入学してくるという点も否めないからです。実際、日本人学生にとって一番のハードルはTOEFLだと思われます。僕自身も相当苦労し、かなりの回数TOEFLを受けて何とか110点まで上げましたが、これでも他の国の同級生と比べると英語力はかなり下のレベルです。2年コースに合格した日本人は、やはり英語力は少なくとも僕と同等かそれ以上はある方が多いです。そのため、2年コースを目指すのであれば、まずは英語力を徹底的に高めること(TOEFLの点数を上げること)、1年コースであれば、パブリックに関連する分野でしっかりとした実績を作ることが重要になってくるのではないかと思います。
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  • 2015-11-13 20:29
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プロフィール

tak

Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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