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ポリティカルリスク分析について

 ケネディスクールやフレッチャースクールの友人と話をしていると、卒業後の一つの魅力的なキャリアの一つとして、ポリティカルリスク分析企業(Political Risk Analysis Firm)が挙げられます。例えば、「Gゼロ後の世界」で有名なイアン・ブレマー氏が率いるEurasia Groupや、女性初の国務長官を務めたMadeleine Albright氏が立ち上げたAlbright Stonebrige Groupが代表格として挙げられます。他にも、元国務長官のヘンリー・キッシンジャーが立ち上げたKissinger Associates、元国防長官のWilliam Cohenが立ち上げたThe Cohen Groupなどが、同様の企業として挙げられます。これらのポリティカルリスク分析企業は、投資銀行などの民間企業を主なクライアントとして、それらの企業が新興国に投資をしたり、新規参入する際に、その国の政治的リスク・規制リスク・地政学的リスクなどを分析し、アドバイスをする役割を担っています。オルブライト・ストーンブリッジグループは、Political Due Diligenceという言葉を使っています。メガン・オサリバン教授が、国際的な出来事が原油価格に与える影響を分析して、エネルギー投資企業にアドバイスを行っているのも同様の例として挙げられます。(過去の記事

 日本では、国際関係論や安全保障を勉強した人が、学んだことをそのまま活かせるキャリアとしては、外務省や防衛省などの官庁に行くか、研究者としてアカデミックで生きていくかのほぼ二択になってしまっていると感じます。アメリカでは、これらの二つの選択肢の他、こうしたポリティカルリスク分析企業が、そうした国際関係論や安全保障の専門家の受け皿になっているのが、とても興味深いと思います。実際、僕のMPA2のクラスメイトで、大学卒業後アメリカのマッキンゼーに務め、国際関係論や安全保障に強い関心を持っていて、ペンシルベニア大学ウォートン校のMBAとジョイントディグリーをしている友人は、夏にAlbright Stonebridge Groupでインターンをしていました。ビジネスに関心を持ちつつ、安全保障の世界にも強い関心を持つ人にとっての魅力的なキャリアの一つとして、これらのポリティカルリスク分析企業があると感じています。

 今日、東アジアの安全保障の授業の講師であるJohn Park先生のオフィス・アワーに行きました。John Park先生は、来年の夏にはケネディスクールからシンガポールに移住することが決まっています。彼は、シンガポールで、Political AnalysisのCertificateを取得するプログラムを立ち上げたいというビジョンを語ってくれました。理由の一つとして、Political Risk分析企業は、元軍人や政府幹部、外交官をたくさん雇っていますが、彼らは、必ずしもPolitical Risk分析の体系的な訓練を受けてきていないこと。理由の二つ目として、そうした元軍人や政府幹部が持つ情報は、軍や政府機関を離れて時間が経てば経つほど、陳腐化してしまい、使い物にならなくなることが挙げられます。John Park先生としては、医者が医師免許を取得し、臨床の訓練を積んでから、一人前の医者として認められるのと同じような仕組みを、Political Risk Analysisの世界に持ち込みたいと考えています。

 こうした話を聞いているうちに、日本においても、例えば、エネルギー政策や貿易政策を立案するときに、経済学的な分析とともに、その政策が安全保障に与える影響まで考慮して政策を作ることができる人はどれだけいるのだろうという問題意識が芽生えてきました。日本には、ユーラシアグループやオルブライト・ストーンブリッジグループのようなポリティカルリスク分析企業はほとんどないのではないかと思います。政策立案をする人自身が、Political Risk分析の能力を持つことで、組織に入ってくる鮮度の高い情報と組み合わせて、より良い政策立案ができるのではないかと感じました。例えばですが、Nuclear Dealによりイランへの経済制裁が解かれ、イランの原油市場が開かれたときに、日本としてイランからどれだけ原油を輸入すべきかという戦略を立てる際には、中東の地政学的リスクを的確に分析する必要があります。また、日本の原子力発電所をどれだけ再稼働すべきかを検討する際にも、電気料金やCO2にどれだけ影響を与えるかという点以外に、その再稼働が東アジアの安全保障、特に中国や韓国の政策に与える影響なども分析をする必要があると思います。ケネディスクールの同級生や、メガン・オサリバン教授、John Park先生との交流を通じて、こうした経済学的分析と安全保障の観点からの分析を統合できるような人材が今後は必要になってくるのではないかと思いました。
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先日、ボストン日本人開発コミュニティの場で、銀行出身の方とちょうどポリティカルリスクの話になりました。プロジェクトファイナンスに絡んだ話から派生したのですが、エネルギー関係の企業に比べて更にその手の知見に乏しい建設企業にとって、政治的な債権回収リスクが海外進出の大きなネックになっているところ、オールジャパンでその手の知見を共有できないか、という投げかけをしてみたのですが、そうした知見を比較的有している銀行側としては、その情報格差そのもので商売しているという側面がある以上、なかなか「オールジャパンだから情報共有してね」と言われても頷き難いものがある、と。
その点、ご指摘のポリティカルリスクの分析と提供それ自体をビジネスとする民間アクターの話はとても興味深いです。ご指摘のアカデミアや実務家の受け入れ先&供給源となって、人材流動化が図られるというメリットも少なく無いと思いますが、特に海外に出ざるを得ない状況下にありながら、ポリティカルリスク分析に割くリソースに欠けるインフラ系企業の海外進出に大いに利があると思います。

ビジネスと政策では、どうしても情報の収集・分析のrequirementsが異なると思うので、政策立案をする側にそうした人材を配して国がコンサルするというよりは、記事中で紹介されているような民間のコンサル会社を日本でも立ち上げてもらって活躍してもらう方が良いとは思いますが。(ビジネスポリシーも含めて「政策」ということだったのであれば流してください。)
近年はやりの海外進出支援の官製ファンドにおいて、そのメインである(民間市場を荒らしかねない)金融支援業務のサブ的位置づけになってしまっているコンサル業務の中で、まずはそうしたポリティカルリスク分析の人材育成を図ってもらう。そして、次第に、そうして育成された人材に独立して企業していってもらうという形が一番可能性があるかな、と個人的には考えているところです。
  • 2015-11-26 15:18
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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