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Great Power Competitionの授業から学んだこと

 金曜日に、2年目の秋学期が終了しました。このブログではあまり触れてこなかったですが、今学期は、マーシャル・ガンツのパブリックナラティブ、John Park講師の東アジアの安全保障の授業の他に、元国務次官のニコラス・バーンズ教授のGreat Power Competition(大国の競争)、ローレンス・サマーズ教授とロバート・ローレンス教授が共に教えるFuture of Globalizationの2つの授業も取っていました。このうち、Global Power Competitionの授業で学んだことを、簡単に以下に整理しておきたいと思います。

(1)国家のPowerの定義
 バーンズ教授は、ケネディスクール元学長のジョセフ・ナイ教授のフレームワークを活用して、国家のPowerを構成する4つのPowerを定義しています。それらは、Economic Power、Military Power、Political Power、Soft Powerの4つです。例えば、アメリカを見ると、Economic Powerについては、世界最大のGDP、世界の基軸通貨としてのドルを有する、Military Powerについては、世界で最強の軍隊を持ち、中でも世界の7つのどの大陸にもリーチできる強力な海軍を持っていること、核兵器を有していること、Political Powerについては、世銀やIMF、UNなどの国際機関において依然として強い影響力を行使していること、国連安保理の常任理事国として拒否権を持っていること、日本やEU、オーストラリア、カナダ、メキシコなど、各地域に強力な同盟国を有していること、Soft Powerについては、ハリウッドなどユニークな文化を持ち、世界中から優秀な人材を惹きつけていること、という分析ができます。国家のパワーを、これら4つのPowerから分析するという枠組みは、僕にとっては新しい学びでした。バーンズ教授は、中でも、Economic Powerこそが、他の3つのPowerを維持・強化する上で必要不可欠なものであり、最も重要なPowerであるという考えを持っています。

 日本をこの4つのPowerに基づいて分析すると、Economic Powerについては、世界第三位のGDPを持っていること、Soft Powerについては、ユニークな日本文化を持ち、観光客を多く惹きつけていることなど、強みを持っていると言えると思います。他方、Military Powerについては、アメリカやEUと比べると強くないこと(自衛隊しか持っていないこと)、Political Powerについても、APECなどのアジア地域でのフォーラムでは一定程度影響力を発揮しているものの、UNなどの世界規模のフォーラムで影響力を発揮しているとは言いがたい状況だと思います。

 この4つのPowerの現状と将来性を総合的に判断し、バーンズ教授は、アメリカ、EU、中国、インド、ロシアの5か国を、Global Powerと定義しています。ブラジルも昨年まではGlobal Powerの一つに含まれていましたが、最近の経済状況の悪化を踏まえ、今年度はGlobal Powerからは外れていました。日本は限りなくGlobal Powerに近いものの、現状では、Great PowerとMiddle Powerの中間に位置するというのがバーンズ教授の考えです。

(2)System Operatorという概念
 国際政治学者であり、プリンストン大学ウッドローウィルソンスクールのジョン・アイケンベリー(John Ikenberry)教授の提唱したSystem Operatorという概念を学びました。System Operatorは、国境を越えて、リベラルな価値観を広め、国際的な秩序を確立する責任を果たそうとする国のことを言います。リベラルな価値観とは、具体的には、開かれた貿易(Open Trade)、民主主義(Democracy)、人権の保護(Human Rights Protection)、多国間の協調(Multilateral Cooperation)などが含まれます。アメリカは戦後、世界で唯一のSystem Operatorとして責任を果たしてきましたが、2001年のイラン・アフガニスタンへの侵攻が外交政策の失敗として捉えられていること、また、2008年の金融危機の影響でアメリカ経済も被害を受け、財政的な余力がないと考えられていることから、アメリカ国内では、世界の紛争や課題解決に介入する必要はないというIsolationism(孤立主義)が強くなっています。また、ソーシャルメディアの発展により個人がEmpowerされていること、ISISのテロリズムやサイバー攻撃などに代表されるように、国家以外のプレーヤー(Non-State Actor)が台頭してきていることから、アメリカが国家として世界の問題に介入する必要性が薄まってきていることも指摘されています。さらには、中国やインドの台頭や、シリア問題にみられるようにロシアが中東問題の秩序の確立にリーダーシップを発揮しているなど、世界がアメリカのみが率いるUnipolar WorldからMultipolar Worldに移行していることも指摘しています。このように、戦後から唯一のSystem Operatorとして責任を果たしてきたアメリカが、今後もSystem Operatorとして責任を果たし続けることができるのか、というのがこの授業の主なテーマでした。

 バーンズ教授は、この問いに対して、Capability(能力)とWill(意思)の二つに分けて、分析を加えました。Capabilityについては、(1)で説明した4つのPower(Economic、Military、Political、Soft)を総合的に高いレベルで有しているのはアメリカのみであり、今後数十年は、System Operatorとして責任を果たすCapabilityを持ち続けるだろうとの見方です。他方、Willについては、上記に述べたようなアメリカ国内でのIsolationism(孤立主義)に加え、最近のシリア難民問題やISISなどのテロリズム問題に対し、アメリカがリーダーシップを発揮して国際的な問題を解決しようという姿勢を見せていないことからも分かるとおり、大きなチャレンジに直面しているというのがバーンズ教授の見方です。バーンズ教授は、アメリカはそれでも、System Operatorとして世界の秩序作りに積極的に貢献するべき、その貢献は世界の平和に寄与するだけでなく、世界経済の安定・成長を通じ、アメリカの利益にもつながるものだという強い信念を持っています。

 このSystem Operatorという概念を学ぶことで初めて、僕の中で長年疑問に思っていた、「なぜアメリカは他国の紛争や問題に積極的に介入し続けるのだろう、どんな利益があるのだろう」という点を解消することができたように思います。それは、世界のSystem Operatorとして責任を果たせるのはアメリカのみであるという強い自負と、アメリカが介入することによって生まれる世界平和・経済の発展、民主主義や自由貿易というリベラルな概念の普及を通じ、アメリカ自身が利益を得ることができるという考えから来ているものだと理解しました。


ニコラス・バーンズ教授がアメリカの直面する課題について語っているビデオです。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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