Entries

Adult Developmentのこれまでの学びの整理

 今学期、僕が最も力を入れて取組んでいる授業は、Adult Developmentという発達心理学に関する授業です。講師はロバート・キーガンという発達心理学の分野で最も著名な教授の一人です。2ヶ月学んだだけでは到底理解しきれないほど膨大な知見が積み重なっている学問ですが、自分の頭の整理のためにも、これまでに学んだ重要なコンセプトについて整理をしておきたいと思います。

1.発達の定義について
 キーガンは、発達を、「自分の直面する世界や現実に対しての意味付けのシステムを、質的に複雑にしていくこと(develop qualitatively different meaning making systems of the world/reality)」と定義しています。そして、この定義によれば、幼児が小学生に成長するにあたって世の中の見方を複雑化するように、人間は成人になり、いくら年を取っても、発達を続けることができます。キーガンは、精神の複雑性に応じた人間の発達過程を5段階に分けています。第一段階(2歳〜5歳くらいまで)、第二段階(Instrumental Mind、6歳〜16歳くらいまで)、第三段階(Socialized Mind、大半の成人)、第四段階(Self-Authoring Mind、約3分の1の成人)、第五段階(Self-Transforming Mind、約1%の成人)の5つです。

 第三段階のSocilized Mindを持つ成人は、自分の欲求を満たすことにとらわれていた第二段階とは異なり、他者の観点・欲求や、社会の要請・期待などを客観的に観察することができます。さらに、それらの他者や社会の期待を自分の中に内製化することができている状態です。会社などに属した時に、第三段階の成人は、上司の期待や会社から求められていることに忠実に応え、社会人として一人前に働くことができます。他方、第三段階の成人は、他者の期待を満たすことを最大の目的としているため、自分が大切に思う二つの相反する利害が衝突したときに、それらの折り合いをつけることができないという問題に直面します。また、第三段階の成人は、他者や社会が自分の価値観を構築してきたため、自分の価値観やルールを自ら作ることができません。そのため、組織の中でリーダーシップを取り、自分自身で仕事を創出していかなければならない立場に置かれた際に、第三段階の成人はつまづいてしまいます。

 第四段階のSelf-Authoring Mindを持った成人は、社会の価値観・期待などに影響を受け、それらを内製化している自分自身や他者を、一歩引いて、客観的に観察することができます。その上で、そうした社会の価値観や大切な人の期待を考慮に入れつつも、自分の価値観・物事の決め方・仕事の進め方などを自ら構築(Author)していくことができます。第四段階の成人は、第三段階の成人が解決することのできなかった、相反する利害の調整や、自ら新しい仕事を創出することを、より容易にできるようになります。また、ハイフェッツの適応型リーダーシップの表現を使えば、バルコニーに上がり一歩引いた視点でシステムを観察することができ、システムに対し効果的な介入・リーダーシップの発揮を行うことができるようになります

 この授業で発達心理学のコンセプトを学べば学ぶほど、僕自身は今は第三段階、あるいは、よく見積もっても、第三段階から第四段階への移行期にあると感じています。例えば、就職活動をしていた時も、自分の所属していた大学院の友人の価値観、家族の期待などを背負って、それを元に就職先を決めたように思います。どこまでが他者・社会によって構築された価値観で、どこからが自分が自ら構築した価値観なのか、区別がついていない状態だったと思います。優秀と言われている大学生が、周囲の価値観・時には2ちゃんねるのようなネット情報に影響され、いわゆる難関で、優秀な人が多いと言われる企業(例えば、外資系コンサルや外資系金融機関など)を何となく目指すといった行為の多くは、第三段階の成人に見られるものだと思います。このように、自分が大切にしている価値観や判断の基軸は、実は家族や社会に大きく影響されて形成されていることが多く、そのことに自分自身気付いていない、客観的に観察することができていない状態が、第三段階の特徴だと思います。

2.主体と客体、免疫マップ
 キーガンは、発達について、1.とは別の言葉を使っても表現しています。つまり、発達とは、自分の主体(Subject)をどんどん小さくしていき、客観的に観察することのできる客体(Object)を増やしていく連続的な過程だということです。ここで言う主体(Subject)とは、それを通じて世の中を見ているレンズであり、自分にぴったりとくっついているために、客観的に観察することのできないものです。他方、客体(Object)とは、自分が観察することのできる対象です。キーガンは、自分にくっついている主体を自分から切り離し、観察することのできる客体としていくプロセスを積めば積むほど、世界や現実を捉えるためのシステムをより複雑化できると主張します。

 授業では、この主体と客体という概念に関連して、免疫マップ(Immunity to Change Map)と呼ばれる、個人や組織の行動の改善のためのマップについて深く学習します。免疫マップは、(1)改善目標(Improvement Goal)、(2)阻害行動(Behaviors)、(3)隠れた目標(Hidden Commitments)、(4)固定観念(Big Assumptions)の4つからなり、これを書くことを通じて、改善を妨げている隠れた目標や固定観念を明らかにしていきます。このマップを作成する作業は、これまで観察することのできなかった主体を客体に変えていく作業とも言え、自分の行動原理・精神構造について一歩引いて観察することができるようになります。そのため、免疫マップの作成と、キーガンの理論で言うところの発達には相関関係があります。

 僕自身、この免疫マップの作成を通じて、改善目標(依頼にNoと言うことも含め、より勇敢なコミュニケーターになりたい。)に対し、それを妨げている隠れた目標(人に嫌われたり、グループから阻害されたくない。非協力的な人物と思われたくない。)や、固定観念(Noとはっきりと言ったらその人から嫌われるだろう。一度嫌われたらずっと嫌われ続けてしまうだろう。)を言語化することができました。免疫マップについては、キーガンの著作の邦訳(なぜ人と組織は変われないのか―ハーバード流 自己変革の理論と実践)が出ており、非常に読みやすい本なので、関心のある方は是非手に取ってもらうといいと思います。

 こうした理論を学ぶうちに、文章を書くことの重要性にも気付くことができました。免疫マップに限らず、ブログも含め、文章を綴るという作業自体が、これまで自分につきまとっていた主体を、観察することのできる客体にする作業と言えると思います。漠然とした思考を言語化する作業は労力を要しますが、それによって、より多くの事象を観察することが可能となり、キーガンによれば、それが精神の発達につながるのだと思います。

3.発達する必要性について
 キーガンは、仕事やプライベートにおける社会的な様々な要求が、人間を発達させる原動力になっていると主張します。2.でも見たとおり、第三段階にとどまっている限りは、自分が大切に思う他者の相反する利害の調整が困難であったり、自ら仕事を創出することが難しい状況にあります。組織で高いレベルに上がるなどの外的変化が起きた場合や、自ら起業するなどの決断をした場合に、第四段階へと発達していく必要性が高まっていきます。また、キーガンの発達心理学で面白い点は、こうした仕事における環境の変化だけでなく、パートナーとの関係構築や子育てなどのプライベートの出来事が、成人の発達を要請していると主張している点です。

 僕自身の関心は、今後パートナーとの関係性や、子どもができた場合にはその子どもとの関係性において、どのように自分が発達していかなければならないかという点です。今の第三段階の世界の見方・現実の捉え方では、限界が来てしまい、パートナーとの信頼関係も築けず、子育てもうまくできないかもしれません。30歳になると、周囲の友人は結婚している人や子どもを育てている人が増えています。一概に決めつけることはできないのですが、傾向ととして、パートナーがいて子育てもしているような人たちは、精神的に成熟していると感じることがあります。他方、結婚しても、パートナーとうまく関係を築くことができず、離婚をしてしまう人もいます。キーガンの理論は、パートナー同士が異なるレベルの発達段階にいることは、二人が世界を全く異なる視点から見ていることを意味し、不和や離婚の原因になり得ると教えてくれます。その意味で、パートナーのどちらかだけが成長するのでなく、互いに精神的な成長を助け合っていくことができる関係が理想的な関係だと言えそうです。

4.コーチングについて
 上記の3.の最後の部分に関係しますが、この授業を通じて、コーチングという概念を強く意識させられています。日本ではコーチングはあまり普及していない言葉ですが、アメリカでは、企業のCEOや幹部社員などが、Executive Coachと呼ばれるプロのコーチを雇っているケースも多く聞きます。実際、キーガンの発達心理学の理論とコーチングの概念は親和性が高く、キーガンは、受講生にコーチングの資格を与えるための一年間のMinds at Workと呼ばれるプログラムを開講しています。

 今週の授業では、ペアを組んで、未完成の免疫マップを互いにファシリテートして作り上げていく作業を行いました。その中で、適切な質問を投げかけることで、相手の中に既にある答えを引き出していくことの有用性を学びました。発達心理学の言葉で言えば、相手につきまとっている主体を、適切な質問を通じて、観察対象である客体として浮かび上がらせること、相手の世の中を見るレンズを広げてあげる作業が、コーチングの要諦と言えるのかもしれません。今後、組織で上の立場に上がっていく中では、部下や同僚と対話をし、彼らの成長を促していくことも必要になってきます。残りの授業を通じて、キーガンの理論をどのようにコーチングの概念と結びつけ、対話の相手に対してポジティブな影響を与えることができるようになるか、学んでいきたいと思っています。


キーガンの発達理論を解説した動画です。僕がこれまで見た動画の中では最も分かりやすくキーガンの発達理論を解説しています。
Related Entries
Use trackback on this entry.
http://wearewhatwechoose.blog.fc2.com/tb.php/152-50733bb4

Trackbacks

Comments

Post a comment

Post a comment
Only the blog author may view the comment.

Appendix

プロフィール

tak

Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

最新トラックバック

ページビュー数

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR