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2年間の学びの総括②〜国際政治・経済について〜

 ケネディスクールでの二年間の研究の柱の二つ目は、国際政治・経済でした。そもそもの問題意識として、私が社会人になってから、日本のGDPが中国のGDPに抜かれたり、日中関係の悪化に伴い中国がレアアースの輸出を制限する事態が発生したことから、中国の台頭をはじめとする国際情勢の大きな変化の中で、日本はどのような方向性を目指していくべきかを学びたいと思っていました。また、日本の大学院では、経営学や企業戦略論、技術ロードマッピング等、MBAの内容に近い科目を重点的に学んでいました。そのため、ケネディスクールでは、企業の戦略やコーポレートファイナンス、起業論といったミクロな観点の科目ではなく、貿易や国際金融、国際関係論等、国と国はどのように相互依存しているのか、そもそも世界はどのような方向に動いていくのかというマクロな観点を得られるような科目を重点的に取りました。二年間を通じ、以下の8科目を受講しました。

● 貿易の政治経済学(The Political Economy of Trade)
● アメリカの官民関係(Business-Government Relationship in the United States)
● 民主主義の理論(Democracy Theory)
● 大国間の競争(Great Power Competition in the International System)
● グローバリゼーションの未来(The Future of Globalization)
● 発展するアジア大洋州におけるアメリカの利益の交渉(Negotiating U.S. Interests in an Evolving Asia Pacific)
● 競争力の政策(Policies for Competitiveness)
● 国際金融政策の経済学(The Economics of International Financial Policy)

 そもそも世界はどのような方向に動いていくのか、その中で日本はどのような方向性を目指していくかというのは非常に大きな問いで、自分の中でも明確な答えが出たわけではなく、卒業後も学び続け、アップデートしていく必要があると思っています。ただ、ケネディスクールで得られた3つの視点について、以下に整理しておきたいと思います。

1.国家のパワー
 これについては、過去の記事「Great Power Competitionの授業から学んだこと」に詳しく述べたので、ここでは簡単に書いておきます。ニコラス・バーンズ教授の定義によれば、国家のパワーは経済力、政治力、軍事力、ソフトパワーの4つから構成されます。バーンズ教授は、その4つのパワーの中でも、経済力が、その他3つを維持する上での基盤となるものであり、アメリカが大国の地位を維持できているのはその強い経済力があるからに他ならないと主張していました。日本という国が今後も国際社会の中でパワーを維持していくという前提に立つのであれば、憲法の制約があり、軍事力を強くすることに限りのある日本は、経済力を基軸に国作りを引き続きしていく必要があると感じるようになりました。そもそも日本が国際社会の中でパワーを維持する必要はないのではないか、人口減少を迎える日本は経済力の増大・量的な発展を追究するべきでなく、例えばスウェーデンのような持続可能性に重点を置いた国家や、シンガポールのような国家を目指すべきではないかという意見も聞きます。これに対して、私自身の今の考えは、中国やロシアの近年の動きに見られるような大国が領土・領海の拡大を追求していく動きや、アメリカが世界の問題に介入することを控える孤立主義(Isolationism)の動きを強めており、アメリカが今後も東アジアの安全保障に積極的に関与するかどうかが不透明なこと等から、日本は自国を守り、他国と対等以上に関係を構築できるだけのパワーを維持し続ける必要があるのではないかと思っています。

2.グローバリゼーションにおける、政府というプレイヤーの役割
 グローバリゼーションの未来(Future of Globalization)という授業では、国際問題において、政府のみでなく、民間セクター・非営利セクターといった多様な主体がメインプレイヤーに躍り出ていることを学びました。例えば、サイバーセキュリティの問題では、ある国のハッカー集団が他国の政府の機密情報を盗む等、民間セクターの存在感が非常に大きくなっており、従来の国際的な枠組み、例えば国連やNATO等の政府間の国際協定では、十分に対応ができなくなっています。ISIS等のテロリズムも、従来の戦争とは異なり、政府以外のプレイヤーがテロリズムを仕掛ける主体者です。他にも、エボラ問題に代表される国際保健の分野では、ゲイツ財団やクリントン財団等の非営利セクターが重要な役割を果たしていて、WHOをはじめとする国際機関や各国政府が十分に機能を果たせていないことも学びました。このように、国際問題において、政府が独占的に役割を果たすのではなく、民間セクター・非営利セクターが主要なプレイヤーとして存在感を高めています

 その中で、政府はどのような役割を果たしていくべきでしょうか。一つは、民間セクターがグローバルな市場の中で公平に競争できるようなルール作りです。貿易の政治経済学の授業では、民間セクターが他国市場で不当な扱いを受け、それを改善するために政府対政府で解決を目指すケースを学びました。例えば、EUが、消費者の保護を理由に、アメリカのホルモンを用いて飼育された牛肉の輸入を禁止したことに対し、アメリカはWTOの紛争解決手続き(WTO Dispute Settlement Mechanism)に則り、解決を図ろうとしました。また、新たなトレンドとして、従来は貿易協定に含まれていなかった為替政策等の要素を、貿易協定に盛り込もうという動きがあることも学びました。TPPにおいても、法的拘束力はないものの、行き過ぎた通貨の切下げ競争を避ける、定期的なマクロ経済問題について話す場を設けるという内容の共同宣言が発出されています(アメリカ財務省のサイト)。日本においても、民間セクターがグローバルな市場で行動することがますます増える中、WTOやTPP等の貿易協定、G7やG20等の政府間の枠組みを活用して、新興国等におけるマクロ経済政策・制度の改善を求めていく政府の役割は、引き続き重要になってくると感じました。

 もう一つは、安定的なマクロ経済の運営です。国際金融政策の経済学の授業では、変動相場制か固定相場制のどちらを取るかといった為替レジーム、国の資本流入・流出をどれだけ開放するか、金利やインフレに影響の与える金融政策の舵取りをどうするかといったマクロ経済の運営が、民間セクターの行動や国の経済的アウトプットに与える影響の大きさを学びました。例えば、ラテンアメリカ諸国は、1980年代を中心に、マクロ経済の運営の失敗が理由で対外債務の返済ができずデフォルトに陥り、そのデフォルトの歴史があることが現在も尾を引いて、未だに国が市場から借りられる金利(sovereign spread)に影響を与えていることを学びました。また、中国が現在資本の流出、通貨の切り下げ圧力にさらされている理由の一つに、アメリカFRBの金融政策によるアメリカの金利の高まりがあるというように、一国の経済は他国のマクロ経済政策にも大きく依存していることも学びました。政府の役割として今後も残るものに、他国の政府のマクロ経済政策の動向を見ながら、時にそれと協調しつつ、安定的なマクロ経済の運営をしていくことが挙げられ、それは民間セクターの利益拡大の基盤になるものです。

3.民主主義
 民主主義の理論の授業を通じて、アリストテレスやルソー、ロック等のアメリカの民主主義の思想に影響を与えた古典を読んだ他、2年間ケネディスクールに身を置き、様々な同級生と交流する中で、これまで考えることの少なかった民主主義のあり方について考えるようになりました。アルゼンチン人の同級生で、世界に広がるカトリック教徒の間のネットワークを活用し、気候変動問題の重要性について主張(Advocacy)する団体を率いている友人がいます。彼は、元々グーグルで働いていましたが、そのキャリアを投げ打って、現在の市民活動家としての活動に注力しています。彼はパリで開かれたCOP21にも参加し、オランド仏大統領と面会して気候変動対策の重要性を訴える等、活動の範囲を積極的に広げています。彼は、他にも、ハーバード大学の基金による石油や石炭等の化石燃料への投資を止めるべきという、Divest Harvardという活動にも関与しています(http://divestharvard.com/)。彼のように、大企業での安定したキャリアを捨て、市民活動家という立場から政府の政策を変えていくという生き方があることに驚きました。

 他の例で言えば、ゲイの人権に関する動きが挙げられます。私がケネディスクールに来て一番驚いたことの一つに、同級生の中における性的少数者(LGBT)の割合が極めて多いこと、彼らが積極的に性的少数者の権利拡大に向けて活動していることでした。そして、2015年6月に、同性婚は合憲であるとの判決が最高裁により出され、ケネディスクールは、それを地道な市民活動の成果だとして礼賛しました。これらの例は数ある事例の一部に過ぎないのですが、アメリカでは、一市民が同じ想いを持った仲間達とつながり、声を上げていくことで、政府の政策や、企業の行動を大きく変えていくことができるという信念が貫かれているように感じます。日本では、市民活動家というと、ラディカルな思想を持った人達が多いようなネガティブなイメージも含まれるかもしれません。私自身もそのようなイメージを持っていました。しかし、市民活動家やNGOの活動が活発化することは、彼らと政府・企業の間に良い意味での緊張関係を生み、優れた政府の政策や企業の行動につながっていくのではないかと思いました。日本では、原子力発電所を初めとするエネルギー問題に関するデモや、直近では保育園に関する環境整備を求める市民の動きが活発化しています。そのやり方には工夫が必要かもしれませんが、このような市民自らが声を上げていく動き、NGOの活動の活性化は、日本にもっと求められるものだと感じました。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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