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2年間の学びの総括③〜ソフトスキルについて〜

 ケネディスクールでの二年間の研究の柱の三つ目は、ソフトスキルでした。留学の直前に国際交渉の業務に携わった中で、日本が国際交渉の舞台で必ずしもリーダーシップを発揮できていないのではないかという危機感を感じました。また、個人レベルでも、国際会議に日本から一人だけ参加するという経験を何回かさせてもらう中で、欧米主導で議論が進む中萎縮してしまい、議論に全く貢献できないという不甲斐ない経験をしました。こうした経験から、国際社会の中で堂々と議論し、多様なバックグラウンドの人達を動かすリーダーシップ・交渉力・パブリックスピーチといったソフトスキルについての研究を深めたいと考えていました。二年間を通じ、以下の7科目を受講しました。

● 交渉の行動科学(Behavioral Science of Negotiation)
● リーダーシップシステム(The Leadership System: Leaders, Followers, Context)
● コミュニケーションの技法(Arts of Communications)
● リーダーシップの行使(Exercising Leadership: The Politics of Change)
● パブリック・ナラティブ(Public Narrative : Self, Us, Now)
● 気付く力(Noticing : A Leadership Challenge)
● 成人の発達(Adult Development)※ハーバード教育大学院の授業

 こうしたソフトスキルは、人生を通じて少しずつ高めていくものだと考えていますが、ここでは、ケネディスクールで得られた3つの視点について書いておきたいと思います。

1.周囲を活かすリーダーシップ
 適応型リーダーシップの授業で得られた学びについては、過去にいくつか記事(主な概念の説明最終授業)を書いているので、以下には、簡単に記したいと思います。リーダーシップに関しては様々な理論がありますが、ケネディスクールが最も押し出している適応型リーダーシップ(Adaptive Leadership)の特徴は、精神医学・発達心理学をバックボーンとしていることです。授業は非常に特徴的で、大教室での議論に教授は参加せず、学生に全てが委ねられる中で、どういった学生が次第に影響力を発揮していくか等のグループダイナミクスを観察・分析しました。適応型リーダーシップでは、リーダーシップの発揮(Exercising Leadership)を、構成員に真の課題に気付かせ、その課題の解決に向け構成員が主体的に行動するような環境を整えることと捉えます。この授業を通じて、効果的にリーダーシップを発揮するためには、システムの中で表面化されない隠れた見解(Hidden Perspective)を浮かび上がらせることが重要であり、そのためにも構成員が安心して発言をできるような環境(Holding Environment)を提供することが重要である等の学びが得られました。

 行動経済学・心理学について学ぶ気付く力の授業では、違った観点から、同様のコンセプトを学びました。つまり、リーダーの持つ、自分の都合の良いように物事を解釈する傾向(Self-Serving Bias)や、既に目の前にある情報に過度に依存してしまう傾向が、意思決定の重大な失敗や、未然に防ぐことができたであろう事故(Predictable Surprise)を引き起こしてしまうということです。例えば、マックス・ベイザーマン教授は、アメリカNASAのチャレンジャー号の爆発事故は、現場の技術者が爆発の可能性について懸念の声を上げるのを聞き入れず、新しい情報・データを積極的に求めなかったマネジメントの失敗・組織文化の欠陥に起因すると説明しました。この授業で得られた学びは、重要な意思決定を行う際には、自分の物事の捉え方にはバイアスがかかっていることを自覚した上で、他者の意見を積極的に求めていく、目の前にない情報を集めるために積極的に質問することが必要不可欠だということです。

 これらの学びは、年上の人達や権威を尊重する日本の文化には馴染みにくい部分もありますが、リーダーシップを発揮する人の心掛け次第で、少しずつ変えていけるのではないかと思っています。私自身、今後のキャリアでリーダーシップを発揮する機会を得た際には、まずは周囲の人たちに課題に気付いてもらい当事者意識を持ってもらう、彼らが安心して発言できるような環境を作る、自分自身のバイアスを訂正するために積極的に周囲の意見を求めていくということを心掛けていきたいと考えています。

2.感情・共感を意識したスピーチ
 コミュニケーションについては、主にコミュニケーションの技法パブリック・ナラティブの授業を通じて、学びが得られました。具体的には、組織・周囲の人達を効果的に動員するためのスピーチの手法について研究しました。これについても、過去に記事(コミュニケーションの技法の授業良いプレゼンの例)を書きました。授業中に実際にスピーチを行い、教授や受講学生からフィードバックを受けることにより、論理だけでなく相手の感情に訴えることの重要性や、自分のパーソナルな物語(Story)や聴衆との共通体験を語ることで、聴衆との間に共感を生むスピーチの手法について、理解を深めることができました。

 事例を見た方が理解が進むと思うので、ここでは、パブリック・ナラティブの授業で紹介されたスピーチのうち、最も印象に残ったものを紹介したいと思います。それは、1968年に、ジョン・F・ケネディの弟のロバート・ケネディが、黒人の解放運動を進めてきたキング牧師が暗殺されたその日に行ったスピーチスピーチのスクリプト)です。キング牧師の死を公に伝えたのはロバート・ケネディが初めてであったため、聴衆が精神的にショックを受け、暴動を起こすことも懸念されていました。キング牧師を暗殺したのは白人でした。そのため、特に黒人の聴衆は、裕福な家庭に育った白人であるロバート・ケネディに対して心理的な反発を覚えたはずです。にも関わらず、このスピーチが歴史上最も優れたスピーチの一つとして讃えられ、聴衆との間に共感を生むことができたのは、ロバート・ケネディが自身の兄が暗殺された体験に触れた以下の部分があったからこそだと思います。
 

For those of you who are black and are tempted to fill with -- be filled with hatred and mistrust of the injustice of such an act, against all white people, I would only say that I can also feel in my own heart the same kind of feeling. I had a member of my family killed, but he was killed by a white man.


 聴衆との共通体験(このスピーチの場合、大事な人が殺害された深い悲しみ)を語り、共感を生んだ上で、ロバート・ケネディは、他者への愛、慈悲といったアメリカが大切にすべき価値について訴えかけます

 What we need in the United States is not division; what we need in the United States is not hatred; what we need in the United States is not violence and lawlessness, but is love, and wisdom, and compassion toward one another, and a feeling of justice toward those who still suffer within our country, whether they be white or whether they be black.


 ロバート・ケネディは、このスピーチの前まで、兄の死について公の場で一度も話したことがなかったそうです。このスピーチは、聴衆の感情に寄り添い、自分の辛いパーソナルな経験を語ることで聴衆との間に共感を生み、大切にすべき価値を訴えるスピーチの最も優れた事例の一つだと思います。

ロバート・ケネディのスピーチの動画

3.リーダーシップの基礎となる発達心理学
 適応型リーダーシップの理論的なバックボーンになっているロバート・キーガン教授の発達心理学の理論を、Adult Developmentの授業を通じて学びました。これについても、過去にいくつか関連の記事(授業の学びイチロー選手の例)を書いたので、以下には、発達心理学が今後の自分の人生にどう応用できるかについて学んだことを、簡単に記したいと思います。

 まずは、人は成人になってからも、精神的に成長をし続けられるという点です。キーガンの理論では、人間としての質的な成長・精神的な成長は、今までには自分に見えていなかったものを、一歩引いて観察できる対象としていくプロセスを積み続けることによって得られると考えます。Adult Developmentの授業では、自身の隠れたコミットメントや固定観念を明らかにするため、免疫マップと呼ばれるマップを作成しました。私にとってこのマップの作成は非常に役に立ち、自分がいかに他者の視線を気にしているか(人から嫌われたくない、グループから阻害されたくない)が分かり、そのことがいかに「はっきりとNOということを含め、勇敢なコミュニケーターになる」という自分の改善目標を阻害しているかが分かりました。これは一例ですが、今後の人生において精神的に成長し続けていくためには、自身の行動を客観的に振返り、言語化する作業を通じ、今までに自分に見えていなかったものを観察対象にしていくプロセスが重要だと気付くことができました。

 次に、仕事だけでない人生のあらゆる側面が、人の精神的な成長に寄与するということです。この授業を取るまでは、仕事における成長は仕事においてのみ役立ち、プライベートとは関係がないというように、仕事とプライベートは全く別のものであるという単調な世界観を持っていました。しかし、キーガンの発達心理学では、仕事、パートナーとの関係構築、子育て、地域コミュニティとの交流等の人生のあらゆる側面における要求・チャレンジが、人の精神的な成長を促すという、より統合的な物事の見方を得ることができました。私自身のこれまでの人生は、かなり仕事に偏った生き方をしてきました。今後は、自分の人生に降り掛かるあらゆるチャレンジが自分の精神的な成長を促すという意識を持って、バランスの良い人生を送っていきたいと思いました。

 なお、加藤洋平さんの「組織も人も変わることができる!なぜ部下とうまくいかないのか」という本は、キーガン教授の発達心理学の理論を平易な言葉で説明し、職場にどう応用するかを解説している本です。この分野の概観を掴む上で非常に良い本だと思うので、関心のある方はお読みいただくといいかもしれません。
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プロフィール

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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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