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新渡戸国際塾②(民主主義とは何か)

多様なメンバーが集まり国際社会におけるリーダーシップについて半年間学ぶ新渡戸国際塾。16人の塾生の間で議論して、今年の自分たちのテーマとして、①国際社会に対する日本人の貢献の仕方、②コレクティブインパクト(異なるセクターの協力)、③(国家など既存の概念が揺らぎ先が見えない時代で)本質を見極める力、の3つを設定しました。毎回様々なゲストの先生と議論していく中で、これら3つのテーマを通期の統一テーマとして、学びを深めていくこととしました。8月5日は、京都大学名誉教授の佐伯啓思さんが講師。テーマは「民主主義とは何か」。私たちが日々生きる上で当然のものとしてとらえてきた民主主義や資本主義について疑問を投げかけられ、深く考えさせられる回でした。1時間半の講演の後、先生と2時間の議論を行った中で、得られた気付きを記録しておきたいと思います。

【佐伯啓思さんの講義の概要】

資本主義と民主主義を続けていては私たちの生活はうまくいかなくなる
・トランプ現象について。普通に考えると大統領になりそうにない人が大統領になった。これに対しメディアの論調は「政治がポピュリズムに流れていて民主主義が変になってしまう。」というもの。しかし、ポピュリズムは大衆が欲しがっているものを与えることであり、人民の意思を直接的に政治に反映するという民主主義の考え方との区別は困難。さらに、トランプは民主主義の中では当然選ばれるタイプの政治家
・アメリカの中間層以下の人たちの生活が良くならないことが、アメリカ社会の混迷を生み、トランプ支持につながった。アメリカの中間層以下の人たちの困窮の原因は2つ。1つはグローバル化。製造業の海外移転をはじめ、新興国との厳しい競争関係が生まれ、中間層以下の雇用が奪われている。2つ目はイノベーション。ITにより雇用が海外に奪われ、将来的にも、AIやロボット、生命科学に関する特殊な技能を持った人は稼げる時代になるが、そのような人材は限られている。政府の推進するイノベーションのために人々の仕事が減るかもしれない。グローバリゼーションやイノベーションの中では自分たちの生活がうまくいかないという不満の中で、トランプが特に中間層以下から支持された
・安保法制や加計学園問題をはじめとする日本の政治への野党やメディアの批判は、国民の意見を聞くべき、意思決定が民主的プロセスを経ていない、という批判が中心。安全保障とはどうあるべきかの大局的な議論がされるわけではなく、全ての批判が民主的プロセスの欠如に行き着いている。では、そもそも民主主義とは何なのか。
・国民の意思で政治が動くこと(=国民主権)を民主主義ととらえるならば、民主主義を実現している国はない。イギリスも主権者は国王。アメリカも主権は大統領、議会、司法に分割されている。
・プラトンは、君主制や貴族制、民主制といった政治システムの中でも、民主制を批判。貴族的な少数エリートによる支配が一番よいと考えた。ソクラテスも、快(人々が欲しがるもの)と善(人々に真に必要なもの)を区別できないとして、民主主義を批判。大衆が政治家に要求し、それに対し政治家が大衆に与えるという連鎖の中で、大衆は甘えていき、社会が滅んでいくと考えた。
・日本は歴史的に天皇が最終的な公であり、公共精神を持つものと考えられてきた。市民の側が公共精神を持ち、議会を作って意思決定していくという西洋的な民主主義の考え方を日本に導入するのは、そもそも難しい。日本はお上が政治をやってくれるという意識が強く、西洋のように市民的公共精神という概念は馴染まないのではないか
政治の役割は、大きな方向性を持って国を動かしていき、国民の福利厚生を高めていくこと。その観点から、民主主義は必ずしもベストではないのではないか
・民主主義では、少しでも政治がうまくいかなくなると、政治のせいだと人々は言い続ける。しかし、政治が物事を全て解決する時代ではない。我々が一人一人考えていく必要がある。自分の手元で解決できる課題は、コミュニティや学校、家族など、自分たちで解決していくという姿勢が求められる。


【得られた気づき】
(1)市民の公共精神/ボトムアップの政策形成について。
市民的公共精神という概念が日本には馴染まないのではないかとの先生の指摘に対し、私から、原子力をはじめとするエネルギー問題や、安全保障・憲法問題について近年日本も多くの市民たちが声高に意見を述べるようになってきている、むしろ市民の公共性に対する意識が高まってきているのではないか政策を作っていく上でもそうした市民の意見を吸い上げ、恊働していく姿勢が必要になるのではないかとの質問を投げかけました。先生は、①経済成長していくという国家目標を人々が共有していた1960年代とは異なり、現在は人々全員が満足できる将来の国家像・解がない中で、公共性を定義するのは極めて難しい問題であること、②日本のエネルギー問題や安全保障問題、通商政策をどうしていくかといった確かな答えのない問題かつ極めて専門的な問題については、それを専門的に扱う官僚組織や政治家が考えていくことが基本になる、というお考えでした。
私は、これに対しては少し異なる考え方を持っており、やはり市民が高い公共精神を持ち、政策に積極的に関わっていくことは、世の中を良くする方向に進めるのではないかと考えています。例えば、私が2年間過ごしたボストンでは、気候変動関連のNGOや、LGBTの権利を主張する市民団体の活動が極めて活発的でした。気候変動関連の活動(Divest Harvard)は、私のケネディスクールの友人が中心になって活動していましたが、単にデモンストレーションの行進をするのみならず、ハーバード大学の基金の投資先に関し、石油や石炭などの化石燃料に対する投資を止めようという具体的な提案を大学側にしていました。そして、実際にハーバード大学の基金が石炭や石油等の化石燃料への投資を一旦停止する発表をするなど、具体的な成果に結びついています。アメリカでは、市民が公共の問題に強い関心を持ち、さらに、それを具体的な提案・アクションに落とし込んで大学や行政組織に訴えるという活動が行われていると感じました。また、アメリカでは、黒人の権利やLGBTの権利も含め、歴史的に市民活動が国の政策を変えてきたことなどから、公共意識を持った市民の活動が政策を変えていけるという強い確信があるのではないかと思います。
日本に目を向けると、やはり政策はお上が決めるものという意識が強く、また、市民の活動が具体的に政策を変えたという成功体験が少ないのではないかと思います。市民団体やNGOについても、科学的・論理的に主張をしている団体があるのはもちろん事実ですが、感情的にデモンストレーションを起こしているだけ、単に反対しているだけという印象を持たれている面もあるように思うので、今後は、政策に対する科学的な批判や、建設的で実現可能な対案を提示していく市民団体やNGOの役割がより強く求められてくるのではないかと思います。国家レベルの難しい課題を解決する政策を立案・実行する責任を持つ行政が、そうした市民団体やNGOと建設的な対話を通じて政策の質を向上させていくという流れができることは重要だと思います。行政側の歩み寄りと、市民団体やNGOの層を厚くしていくことの双方が重要だと思いました。

(2)経済成長を目指すべきかについて。
佐伯先生は、経済成長を至上の価値とすべきでないという「脱成長主義」という主張を持たれており、経済成長を目指すことが重要だと当然のように考えていた私にとっては新鮮な驚きがありました。先生曰く、高度経済成長を遂げてきた1960年代の日本とは異なり、現在は経済学で言うところの生産性フロンティアの限界まで達しており、家庭(余暇)を取るか、経済成長(労働)を取るかといったトレードオフの選択を迫られている状況だとのこと。私たち人間に真に重要なものは人間関係、家族、友人、美的なものなどの金にならないものであるのに対し、経済学は金になるものや市場しか見ていなという限界がある、GDPといった経済力のみで人々の幸福を測ることはできないとの主張でした。加えて、最近ではAIやロボット等の技術を活用した第四次産業革命が謳われていますが、先生はこうしたAIやロボット等の技術を通じても経済成長を実現するのは困難との立場でした。AIやロボットの活用を通じて労働生産性を高めることを想定した場合、結局は失業が生じ失業者は別の労働生産性が低い分野の職業に就かざるを得ないため、トータルでは生産性は向上しないと考えられるとのことでした。
私自身は、経済成長という旗を降ろすことが日本にとって適切かどうかは慎重な議論が必要だと感じています。一点目は、これは個人の価値観の問題にもなりますが、やはり私は日本という国が世界で尊敬されるような国であってほしいと思っていて、そのためには日本の経済成長は重要だと考えています。ケネディスクールのジョセフ・ナイのフレームワークの議論でもありましたが、国力を構成する要素として軍事力、経済力、ソフトパワーなどがある時に、日本が国力を保ち、世界から尊敬され、国際会議でも一定の発言力を持っている背景にはその経済力があると思います。中国の台頭や北朝鮮の脅威にさらされる日本にとって、強い経済力を持っていることは、日本の安全保障を考える上でも重要だと考えています。
二点目は、やや抽象論になりますが、やはり人間は毎日自分が成長している、レベルを高めていると感じられること自体が幸せにつながっている面があると思います。私自身も、日々の仕事の中で様々なチャレンジに直面することが多く、精神的にも大変な経験もしてきました。しかし、少しずつ、日々の仕事の中で自分の仕事上の知恵や背景知識が増えたり、周囲の人たちに働きかけて成果を上げるような経験をさせてもらい、自分のレベルが少しずつ向上していることを実感できることも幸せの一つだと考えています。私たちは日々の仕事の中で経済成長ということを強く意識しているわけではありませんが、日々一歩ずつ進歩・成長していくという姿勢自体が幸福につながる側面は否定できないと思っています。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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