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北極とエネルギーについて

 エネルギーの地政学の授業では、相変わらず、日本ではあまり考えたこともしないようなトピックに関する面白い授業が続いています。この授業の根底にある大きなテーマは、エネルギーには、外交政策の手段としてのエネルギー(Energy as a means)外交政策の目的としてのエネルギー(Energy as an end)の二つの側面があり、国家の外交・安全保障戦略を左右する極めて重要な要素であるというものです。米国のシェールオイル・ガスの生産拡大が、米国の中東政策や、ロシアの対外政策にどのような影響を与えるかというのを学んでいきます。
 先週のエネルギーの地政学では、北極海(Arctic)を扱いました。気候変動の影響で、北極海の氷が溶けていることにより、大きなビジネスチャンスが生まれています。1点目に、北極海に眠っている石油や天然ガスの採掘が可能になること。これにより、北極海に国境を接しているロシアやカナダ、アメリカ、ノルウェーなどは、エネルギーの世界で影響力を増す可能性があります。2点目に、新しい船の航路が開拓されようとしていること。これにより、日本、韓国、中国などのアジア諸国に大きなメリットが生じます。具体的には、これまで、日本からヨーロッパに船で輸送をしようとすると、マラッカ海峡、インド洋、スエズ運河を経由していたのが、北回りの北極海ルートが新たに開通することで、輸送距離・コストを30〜40%削減できると言われています。ただ、北極海ルートが活用できるのは、現時点では6月から10月の期間のみと言われています。それでも、日本をはじめとする東アジア諸国のエネルギー需要のピークは夏に来るため、エネルギー需要の周期とはうまく合致しているとも言えます。

 エネルギー地政学の授業では、学期中を通して、7つある政策メモのテーマから2つを選んで、シングルスペース3枚の英文メモを提出する必要があります。この政策メモは、多忙なオサリバン教授が全て採点し、細かいフィードバックが返ってきます。まだ採点は返ってきていないのですが、この政策メモで高得点を取るのはかなり大変です。まず、クラスメイトはエネルギーや安全保障について極めて高度な知識を持っている人ばかり集まっていること。サウジアラビアの国営石油会社のサウジアラムコのマネージャーや、米国の海軍関係者、カザフスタンの原子力関連の企業で働いていた人、他にも、イラン、クウェート、南スーダン、スーダン、中国、韓国、ロシアなど、エネルギーに深い利害を持っている国の人は大抵います。こうした人たちの中で、普段の授業で意味のある貢献をすることは中々大変ですし、他のケネディスクールの授業と比べても、政策メモの水準も極めて高いものになっていると感じます。僕は今回、はじめて政策メモを提出しました。テーマは、「気候変動が北極海に与える影響と、NATOが果たすべき役割について、NATOの事務局長に提言をせよ。」というものでした。そもそも、NATOが冷戦終了後にどのような役割を果たしているのかあまり知らなかったので、そこから調べる必要がありました。

 僕がした提言は、①テリトリーの問題の解決をはじめ、北極海における安全保障の向上のための中心的役割を果たすこと、②エネルギー安全保障に関するタスクフォースを設立すること、というものでした。①については、国連海洋法条約(UNCLOS)という条約が、北極海のテリトリー問題に対処しているものの、アメリカが批准していないという問題があること、北極協議会(Arctic Council)という北極周辺国が参加する協議会は、環境問題や社会的問題を中心に扱っており、安全保障については扱っていないことを指摘しました。つまり、北極海の安全保障を扱うための包括的なフォーラムは存在せず、冷戦後に国際的役割を低下させているNATOにとって、北極問題を機会ととらえて、安全保障問題を解決するための中心的役割を果たすべきだという提言をしました。②については、NATOの新しいマンデートとして2010年にエネルギー安全保障が加わったこと、しかし、特にNATOとしての付加価値を見いだせずにいたことを指摘しました。そのため、北極海を巡るエネルギー安全保障に関して議論するための場をNATOが設定し、NATO加盟国のみならず、日本や韓国、シンガポールなどNATOのパートナー国も招いて、北極海が生むエネルギーに関する新たな利益をどのように関係国で共有していくかを議論すべきだという提言をしました。もっと画期的な提言ができればと思っていたのですが、関連の論文を読み込むのにも時間がかかり、実際にメモの形で書き下ろすのにも相当時間がかかってしまい、苦戦してしまいました。今回の政策メモに対してどういう評価が返ってくるか、楽しみです。
 
 授業では、北極海問題の専門家であるスコット・ボーガーソン氏(Scott Borgerson)がゲストとして来ました。質疑応答の時間があったので、思い切って、「北極海の氷が溶けることのメリットを強調しすぎることは、各国の気候変動の緩和(二酸化炭素を削減する)の取組みのインセンティブを削いでしまうのではないか」という質問をしてみました。少し意地の悪い質問をしてしまったかなと反省しましたが、先生は、「良い指摘だ(That's a fair point.)。そのような懸念があるのは理解するが、我々としては、北極海の氷が溶けることを所与の条件として、それが生み出す大きな機会に着目している。」というような趣旨の回答をしました。気候変動の取組みを進める動きと、北極海の氷が溶けることによるビジネスチャンスを活用しようとする動きは、相反するものだと感じました。日本も含め、地球環境問題に積極的に取組もうとしている国にとって、あまり開けっぴろげに北極海の氷の溶けるメリットを強調していくことは難しいのかもなと思いました。


2009年のScott Borgerson氏のインタビュー
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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