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気候変動は安全保障上の脅威か?

 エネルギーの地政学では、「気候変動は、テロリズムや核拡散と同等の安全保障上の脅威をもたらすか?」というテーマで議論がされました。これについて、YesかNoか立場をはっきりさせて議論を展開する"Take a Position"の課題が出され、僕はYesという立場を取って、メモを書きました。気候変動は、直接的、間接的の両方から安全保障上の脅威をもたらします。直接的な脅威は、2012年末に起きたフィリピンのハリケーンが気候変動によってその強さを増したと言われているように、異常気象によって直接人の生命を危険にさらします。また、農業に依存する低開発途上国(LDC)にとっては、灌漑などの異常気象によって農作物の生産高が大きく下がることによって、人々の生活を悪化させます。デング熱のような伝染病が蔓延し、人々の命を奪うとも言われています。他にも、モルジブやサモアのように低い高度の島国にとっては、気候変動がもたらす海水面の上昇が領土を直接侵します

 間接的な安全保障上の脅威として、三つを挙げました。一つ目に、気候難民(Climate Refugee)の問題です。例えばバングラデシュでは、気候変動の影響により特に沿岸部における洪水が増加し、その地域に住めなくなった人々がダッカなどの都市に大量に移住する現象が起きています。しかし、ダッカも急速な人口の増加が起きているので、そうした気候難民の受け皿がなく、結果として住環境が劣悪なスラムに住む人々が急増している問題が起きています。また、バングラデシュから直接、隣国であるインドに無法で移住する問題も起きており、インドは問題視しています。二点目に、気候変動が水などの資源を巡った紛争を引き起こすことがあります。例えばスーダンのダーファーという都市では、気候変動により減少した水資源を巡って、紛争が起きたケースがあります。こうした資源を巡った紛争が、気候変動により勃発することが予期されます。三点目に、長期的な気候変動の緩和策(温室効果ガスを削減する取組み)が、いくつかの国々の安全保障を脅かす可能性があります。石油の収入に依存する中東諸国にとっては、世界全体が低炭素化に進むことにより、収入源を維持することができなくなり、国内の政治レジームが崩壊するおそれがあります。また、大気中の二酸化炭素を直接捕獲し、地中に埋めるというジオエンジニアリング(Geoengineering)の実施可能性が議論に上がっていますが、仮にジオエンジニアリングを行うことになった場合、今は誰も想像できないような地球規模の環境問題を勃発するおそれがあります。

 クラス内の議論でも、僕は上記の気候難民の例などを挙げながら、気候変動はテロリズムや核拡散に匹敵するくらいの安全保障上の脅威だということを主張しました。クラスは、真っ二つに意見が分かれました。気候変動は脅威だと主張する人の中には、僕と同じように、人道上の問題が気候変動によって引き起こされるとの主張をする人や、実際にアメリカのホワイトハウスやペンタゴン(防衛省)が気候変動を安全保障上の課題だとみなし、プライオリティを高めていることを主張する人もいました。逆に、気候変動はテロリズムや核拡散には匹敵しないと主張する人の中には、テロリズムや核拡散と違い、すぐに人類の滅亡を導くような喫緊の脅威を与えることはないと主張する人や、気候変動により北極海の資源探査や貿易ルートが開かれるなど、メリットもあるため、一概にデメリットしかないと論じることはできないと主張する人がいました。

 メガン・オサリバン先生の主張は、気候変動は伝統的な安全保障上の問題とは異なった脅威を与えているというものでした。気候変動が難しいのは、テロリズムや核拡散の問題は政府がそのリスクの大きさを評価するのに適切な機関であるのに対し、気候変動は科学(Science)が評価する問題だという点を主張していました。また、気候変動には、それを防ぐために必要な行動に対して、全員が合意するデータが存在しないことも、問題の解決を困難にしている要因だと主張していました。また、国の予算は限られている中、テロリズムや核拡散に充てる予算を抑えてまで、気候変動対策にどれだけの予算を充てるべきかというのは、極めて難しい問題だということも言っていました。

 日本では、気候変動は環境問題であり、主に環境省が関与すべき問題だという見方が強いですが、今後は国の安全保障を脅かす問題として、防衛省なども関与していくべき問題になっていく時代が来るかもしれないと思いました。
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[C53]

勉強になるエントリーありがとうございます。
この分野は目下勉強中なのですが、間接的な脅威の三点目について、例えばCOP21に向けた約束草案がエクストリームな内容(「日本は05年比で30%以上削減」等)になってしまうと、自国のエネルギー安全保障や国民生活に大きな影響が及びますよね。
こういった文脈で言えば、やはり経産省も強く関与していくべき問題ではないかと思いました。
  • 2015-04-11 09:57
  • auau
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[C54] Re: タイトルなし

コメントありがとう!まさに、気候変動は、エネルギー安全保障の観点から、経産省も強く関与していくべき問題だと思います。CO21に向けた約束草案については、野心的な目標を掲げて環境問題における世界の中の日本のプレゼンスを高めていくという観点(外務省や環境省的視点)と、日本のエネルギーの安定供給や国内産業を守るという観点(経産省や産業界の視点)のバランスをどうやって取るかが、すごく難しい問題だと思っています!
  • 2015-04-18 14:05
  • tak
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プロフィール

tak

Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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