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適応リーダーシップ(Adaptive Leadership)

 ケネディスクールで最も有名な授業の一つに、Exercising Leadershipという授業があり、僕も今学期取っています。この授業はロナルド・ハイフェッツ(Ronald Heifetz)教授が理論化した「適応リーダーシップ(Adaptive Leadership)」のフレームワークを学ぶための授業で、これまでの人生で受けてきた授業の中でも、最も不思議な授業です。教授は授業に来るなり、Let's beginと言ったきり立ち尽くし、何もしません。しばらく沈黙が続いた後、しびれを切らした学生がぽつぽつと発言をしだします。Authorityを持つ人物としての教授が、そのAuthorityを放棄して、学生同士のディスカッションに全てを委ねます。その中で、どういった学生のどのような発言が周りの学生を動かし(mobilize)、非公式な権威(Informal Authority)を獲得していくか、逆に、どういった学生のどのような発言は無視され、何の反応も引き起こさないかというのを、観察することができます。6~8人程度で構成される小グループでは、各メンバーの過去のリーダーシップの失敗経験を共有し、周囲がAdaptive Leadershipの枠組みを用いて分析を加えていきます。この小グループ内でも、誰が効果的な発言をし、周囲を動かしていたかというグループダイナミクスを観察することになります。毎週提出する必要のあるアンケートで、こうした大教室、小グループでのグループダイナミクス(Group Dynamics)について考察を加えたり、リーダーシップの失敗ケースとグループダイナミクスの間にどのような類似関係(Mirroring)が生じているかといった分析を行います。毎週アンケートを記入し、TAからのフィードバックを得るので、否が応でもAdaptive Leadershipのフレームワークが頭に定着してくるというイメージです。

 この授業から得られたことは色々あるのですが、中々言葉に落とし込んで説明するのが難しいです。どの概念も英語で学んだので、日本語に訳すのができない言葉もあります。それでも、以下にいくつか学んだ概念を書いておきたいと思います。

Leadership
 Adaptive Leadershipのフレームワークにおけるリーダーシップの定義は、「グループの構成員に対し、価値観の転換を必要とするような真の課題に対してきちんと向き合わさせ(get people to face the tough reality)、行動を起こさせること」というようなものです。リーダーシップの定義は人によって千差万別で、多くの場合、リーダーシップとは、「多大なプレッシャーの中で思い切った決断をすること」とか、「ビジョンを掲げ、メンバーをそのビジョンに向けてモチベートすること」というようなものが多いと思います。Adaptive Leadershipの枠組みでは、価値観の転換を迫られないような技術的問題(Technical problem)に帰着させがちな構成員に対し、価値観の転換を必要とするような真の適応課題(Adaptive Challenges)に向き合わせることこそが、リーダーシップを行使することだと定義しています。また、構成員は真の適応課題に向き合うことを避けたがるため、リーダーシップを行使しようとした人を非難したり、スケープゴート化しようとしたりします。そのため、リーダーシップの行使は危険な作業(Exercising leadership is dangerous)だと捉えています。

Authority
 Adaptive Leadershipの枠組みでは、Authorityの中に、Formal AuthorityとInformal Authorityの二つがあると言います。Formal Authorityは、会社の役職など、地位に伴う権威のことです。Informal Authorityは、地位を伴わないものの、その人物の人間性や専門能力などを元に、周囲が特定の役割や権限を非公式に与えるというものです。Formal Authorityを持つ人には、その場の議論をマネージする、議論が活性化するようテンションを高めつつも、深刻な衝突が起こらないように内部をコントロールする 外部からの不安定要因を排除するといった役割が期待されます。Formal Authorityを持つ人物がそれらの期待に応えられないと、メンバーはその人物を批判したり、スケープゴートにしたりします。また、Formal Authorityを持つことは、メンバーの期待に応えるという役割を果たすことに多くの労力を取られてしまうため、クリエイティブなアイディアを提案したりすることが制限されるという負の側面も持ちます。システムに介入するときには、自分にFormal Authorityがあるのか、Informal Authorityがあるのか、あるいは、どちらもないが、Informal Authorityを持つことができるようどのような行動を取るべきかといったように、Authorityを意識した介入を心がけることが必要になります。

Holding Environment
 グループ内のどの構成員も、何かを失うといった恐れ(Fear of Loss)を抱くことなく安心して発言ができ、多様な意見を含めることのできるような環境を、Holding Environmentと定義します。グループ内では、問題に対してステークを持っているにも関わらず、その意見が反映されずにmarginalizedされたり、silentにならざるを得ない人が必ず出てきます。そうした人たちが、問題を解決する上での隠れた見解(Hidden Perspective)を持っていることがあり、そうした見解を引き出せないことで、問題がいつまで経っても解決されないいうことが起こります。リーダーシップを発揮する上で、こうした静かなメンバーの声を引き出し、Hidden Perspectiveを浮き上がらせるということが極めて重要になります。鍵になるのは、どんな意見であっても好奇心(Curiosity)を持って聞き、共感(Compassion)を示すということです。そうした態度が、普段は静かであったり、発言することで何かを失うことを恐れている人が、意見を表明しやすい環境を作っていくことになります。


 この授業は、どのようなタイミングでどのような介入(Intervention)をすれば人々を動かすことができるのかグループ内にどのような派閥(Faction)が存在するのかそれぞれの派閥はどのような価値観(Value)を重視ししていて、何を失うことを恐れているのかどのようにすれば多様な意見を受容することのできる環境(Holding Environment)を作ることができるのか、といったことを学びます。リーダーシップの授業というよりは、グループ・ダイナミクスを学ぶための授業だと言えると思います。実際に、毎週の小グループやそれを振り返るアンケートでは、個人レベルの(Personal Level)でどういう行動をすべきだったかという話をするのではなく、より広いシステムレベル(Systemic Level)でのステークホルダー間のダイナミクスを分析する訓練を徹底的に積まされます。
 
 個人的には、グループダイナミクスを正しく理解することに加え、人と気持ちよくコミュニケーションするためのInterpersonal Skillを磨くことが、現実社会でリーダーシップを発揮する上では必要不可欠になると思います。このExercising Leadershipの授業を取っただけでは、リーダーシップを必ずしも発揮できるようにはならないのではないかというのが僕の意見です。例えば、ケネディスクールでは、僕も受講したArts of CommunicationのクラスやNegotiationのクラス、オバマ大統領もハーバード・ロースクール時代に受講していたあというPersuasion(説得術)のクラス、いかに人を動かすためのストーリーを作るかを学ぶマーシャル・ガンツ教授のPublic Narrativeのクラスなどがあります。僕自身、Adaptive Leadershipの枠組みを忘れないよう、日々の生活の中でも意識するようにするとともに、来学期以降に、Interpersonal Skillを鍛えるための授業も積極的に取っていきたいと思っています。
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Author:tak
2014年8月より、ハーバード大学ケネディスクール(Harvard Kennedy School, HKS)に2年間留学しています。

HKSでは、エネルギー・環境政策や経済政策、交渉術、リーダーシップなどを学ぶ予定です。このブログでは、HKSでは何をどう教えているか、世界の政治経済分野のリーダーの考え方・習慣、英語学習の秘訣、その他日々の学び・感動を書き記したいと思います。

なお、このブログに書かれたことはすべて個人的見解によるものです。

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